柳家小三治独演会 2010年4月10日
2010年4月10日、神戸の松方ホールでの柳家小三治独演会に行ってきた。
クラシックのコンサートをやるような大きなホールなのだけど、二階席まで満席だ。
一階の十列目にある自分の座席に着いて、「結構近いなぁ」と思い、興奮する。
受付でもらったチラシ類を見ていると、「きょう、関西で初めて実現する『柳家小三治独演会』では、まるまる全部が『小三治ワールド』です」という一文が。
「すごいなぁ、来られてよかったなぁ」と思ってワクワクした。
独演会の演目は
「鯛」 柳家はん治
「長屋の花見」 柳家小三治
「品川心中」柳家小三治
はん治さんは小三治さんの三番弟子だそうで、弟子といっても随分年配だった。
いけすに入った鯛たちのやり取りがユーモラスで、あちこちで笑いが起こる。
続いて小三治さんが出てきた時には、初めて生で見る小三治さんに興奮してしまって、「今、小三治さんと同じ空間にいるぞ!すごいぞ!」と思って、夢中で拍手をした。
黒い和服がかっこいい。
顔がわかる程度には近いのだけど、細かい表情を見るならもっと前の方がよくて、今度はもっと近くに座りたいなぁと思った。
まくらがとにかくすごかった。
ホール内の空気を完全に我がものにしてしまう。
自分を落として笑いを取るのだけど、それが全然卑屈にならなくて、むしろ小三治さんの力を見せつけられてしまった。
偶然のエピソードから話を広げ、トゥーランドットまで披露してくれて、小三治さんの歌声の素晴らしさに呆然としてしまった。
小三治さんは歌を歌うのが趣味で、先生についてまで練習したりしているのだけど、こういうところを見ていると、「そうだ。趣味っていうのは、うさ晴らしとか暇つぶしの手段じゃないんだ!」と思えて、泣きそうになってしまう。
異人館通りの桜を見てきたという話から「長屋の花見」に入った。 この季節にぴったりの噺だ。
この噺は、貧乏長屋のみんなが大家さんに誘われてお花見に行くのだけど、なにせ大家さんも含めてみんな貧乏なもんだから、お酒の代わりに番茶の薄めたもの、卵焼きとかまぼこの代わりにお漬物を持って出かけるという噺。
周りの人に聞こえるように、たくあんを「卵焼き」と呼んでみたり、むしろを「もうせん」だと言ったり、番茶で酔った振りをさせたり、つまらない見栄を張らせようとする大家に辟易なんだけど、それでもみんな何だか楽しそうだ。
他の花見客の服装と自分の身なりを比べてがっかりしたり、本物の卵焼きを羨ましそうに見てたりもするのだけど、それでも不思議とかわいそうな感じはしない。
「貧乏に屈せず」とか「貧乏を受け入れて」なんて次元を超えてしまった人たちのようで、見ていて楽しい気分になってくる。
特に毛氈に見立てられたむしろを持った二人が「毛氈持ってこーい」と呼ばれても自分たちの事だと気付かず、他人の卵焼きに見とれ、「むしろ」という言葉に反応してやっとトコトコとみんなの所へ追いついてくる場面は二人のその可愛い動きが見えるようで愛しくてたまらなかった。
小三治さんの登場人物への愛が感じられて心が温かくなる。
小三治さんが一人で喋ってるにも関わらず、長屋のみんながそこにワイワイいるようで、夢中になって聴いた。
噺が終わって、拍手をする時にはもう、笑いすぎて涙が出そうだった。
品川心中も、すごくよかった。
遊女を演じる小三治さんもよかったし、彼女に呼び出されて部屋で待ちながら一人で妄想する貸し本屋の男も、バカなんだけどかわいくて、それを小三治さんが演じるんだからたまらない。
小三治さんと一緒に噺の世界に入って楽しめる時間はとっても幸せで、噺が終わってしまうのが惜しくて仕方なかった。
初めての生落語体験が素晴らしいものになって本当によかった。