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【本】体の贈り物


『体の贈り物』 レベッカ・ブラウン 新潮文庫 

エイズ患者の世話をするホームケア・ワーカーの女性を主人公にして、彼女と患者やその家族との関わりを描いた短編集。 

著者自身もホームケア・ワーカーをしていたことがあるためか、小説なんだけど、リアリティがある。 
淡々とした表現の中にリアルなセリフや描写が挟まるので、湿っぽくないのにちゃんと響いてくるものがある。 

ホスピスに行くのを嫌がる男性が、「ほんとによくなってるんだよ、自分でもわかるんだ」と言うところで、「エドはよくなってはいなかった。悪くなり方が、ゆっくりになってきただけだ」という説明が入る。 
どんな感情も加えていない淡々とした表現だけど、その残酷なほどの的確さに、彼女がこの仕事を通して感じてきたことや身につけてきたことが表れているような気がする。 

現実を直視すること、それを自分の中で消化すること、患者に対する態度を決めること。 
この三つを瞬時にこなさなければならない瞬間がたびたび訪れる。 
掃除や身の回りの世話をスムーズにこなすのはもちろん、患者との会話や感情のやり取りにおいても高い能力を発揮しなければならない仕事で、精神的なエネルギーをものすごく使うんだろうなぁと読んでいて思った。 

そんな中で、患者から何かを受け取ったり、何かを与えたりする様子が「~の贈り物」と題されるいくつもの短編で描かれていく。 

食べたり眠ったりという基本的なことができなくなるのは本当に辛いのだけど、それが一時的な病気のためではなく、これからどんどん悪くなる病気のためだとしたら、希望をどこに見出せばいいのだろうか。 
患者の友人が「また一歩進んだんだ」と病状の悪化を嘆く場面がやりきれない。 

大事な人がエイズに罹ってしまったと聞いた主人公が心の中で「あとどれくらい」と考えてしまう場面では、それを患者本人に悟られて、次のような言葉をかけられる。 

「あなたにやってもらえることがあるわよ」 
「もう一度希望を持ってちょうだい」 

少ない言葉でサラッと書かれるエピソードに、ハッとさせられる。 

レベッカ・ブラウンの書いた他の作品も読んでみたくなった。