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ツイッター @hyokofuji ミサ

【映画】或る夜の出来事

或る夜の出来事』1934年 アメリ

スクリューボール・コメディと言われるジャンルの作品。性描写が規制されていた時期に主流になった男女が出会ってから恋に落ちるまでの過程に焦点をあてた作品のうち、特に風変わりな男女が惹かれ合うものをこう呼ぶそうだ。『或る夜の出来事』はスクリューボール・コメディの第一弾とも言われているらしい。

富豪の令嬢エリンが恋人との結婚を反対され親元から逃げ出してしまう。彼女がヨットから海に飛び込むシーンに彼女の気の強さが表れていてよかった。泳いで港まで戻れるものなのかどうか不思議だったけど、とにかく彼女は夜行バスに乗ってニューヨークへ向かう。父親の命令で彼女を追いかけた男たちはお嬢さんがまさかバスには乗らないだろうと考えて、彼女を取り逃がしてしまった。

夜行バスに乗ったお嬢さんは新聞記者の男ピーターと出会う。彼は上司との折り合いが悪く、失業状態。初めはケンカをしていた二人だけど、彼女が恋人の元へ行くのを手伝うかわりに彼はこの失踪事件の独占記事を書かせてもらう約束をする。利害の一致した二人が力を合わせて旅を続け、見事にピンチを切り抜けていくところを見ているのはすごく楽しかった。

ピーターは世間知らずのお嬢さんのお守りをするような感じで、彼女を甘やかされたダメな子ども扱いする。彼女の育てられ方についても厳しいことをはっきり言う。金持ち一族に遠慮して批判的なことを全く言わない人たちに囲まれてきた彼女にとってはそれが新鮮だったのだろう。腹を立てて反論しながらも彼女は彼にどんどん惹かれていく。

記事をお金に換えることが目的だった彼が、父親の提示する賞金に目もくれず彼女の側に立ち続けるところを見ていると、彼もまた彼女に惹かれていることがよくわかる。夜行バスに乗り合わせた男が賞金の山分けを持ちかけた時の彼の演技は最高だった。自分が悪党の一味であるかのような芝居をして相手に信じ込ませてしまうのだ。

記事をお金に換えること、恋人の元に逃げること、という二人の目的が二人にとってそれほど大切なものではなくなってきているのがわかるシーンが特によかった。父親が新聞で「娘の恋人と和解して結婚を認める」と発表したのだ。もう恋人よりもピーターに惹かれてしまっているとはっきり自覚している彼女は恋人のもとにも父親のもとにも戻らずピーターと一緒にいることを望むのだが…。

結末を言ってしまうわけには行かないのでここで止めておくけれど、ストーリーの流れは私にとって新鮮なものでは全くなかった。今までに観た色んな作品と似た印象を受けたのだけど、それはこの作品がそれらの作品に影響を与えていたからなのかもしれない。

決して目新しくない話の展開なのに、それでも観ていて飽きないところがすごい。ヒッチハイクのシーンが大好きで「新婚旅行でヒッチハイクの旅ってどうなんだ??」って思ったけど、二人が楽しそうなのがよかった。二人が同じ部屋に泊まる時にロープに毛布をかけて境界を作り、毛布でできた壁をジェリコの壁と呼ぶところもよかった。ジェリコの壁というのはヘブライ聖書『ヨシュア記』に書かれている城壁のことで、この壁が角笛を吹くと崩れたというエピソードが映画の中で使われている。

全体的にテンポがよくて、二人のやり取りが軽妙で、今観てもオシャレな感じに見えるのがこの作品の魅力だなって思った。

監督:フランク・キャプラ
脚本:ロバート・リスキン
原作:サミュエル・ホプキンス『夜行バス』