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ツイッター @hyokofuji ミサ

【映画】情婦

『情婦』 1957年 アメリ
二重のどんでん返しが楽しめる法廷ミステリー。病み上がりの老弁護士役にチャールズ・ロートン、口うるさい看護師役にエルザ・ランチェスター。実生活で二人は夫婦だそう。「映画の結末をまだ観ていない人に話さないで下さい」という結末で知られているらしい。

老弁護士が看護師に付き添われて退院するシーンから始まる。二人の掛け合いが絶妙でこの看護師さんも事件を解決するのに何らかの役割を果たすのかなぁと思ったけど、最後まで口うるさい看護師の域を出なかった。

老弁護士は病み上がりであるにも関わらず自分の健康を顧みず葉巻やブランデーを欲しがっては周りの人たちを困らせる。弁護士事務所の従業員たちも看護師も彼の扱いを心得た様子で、憎まれ口ばかりたたく古ダヌキと言われながらも彼が周りの人たちから愛されているのがよかった。葉巻を杖に隠して持ち歩いていたり、弁護を依頼してきた事務弁護士の上着のポケットに葉巻を見つけてそれをちゃっかり自分のものにしちゃったり、困ったことばっかりするけれど何となく憎めない感じ。彼は葉巻とブランデーと仕事が大好きで、休養と病人扱いが大嫌いなようだ。ブランデーや葉巻を看護師の目を盗んで楽しむ時の彼は老練な弁護士とは思えない幼稚な手を使って、時に看護師に見破られてしまう。そんなところがお茶目でよかった。

病み上がりの彼が引き受けた事件はエミリー・フレンチ事件といって、高齢の未亡人が使用人の留守中に殺されてしまった事件だ。その事件の容疑者になっているのがボールという男。彼は街で偶然未亡人と出会って親しくなり、彼女のうちでお酒を飲んだり音楽を聴いて一緒に過ごすこともあった。彼が彼女のうちを訪ねた日に彼女が殺されているのを夜遅く帰宅した使用人の老女が発見した。彼のことをよく思っていない老女は、法廷で「彼が婦人を殺したに違いない」と証言する。

彼のコートについた血痕が婦人の血液型と同じO型だったり、8万ポンドの遺産が彼に入るという動機が浮上したり、検察側にとって有利な証拠ばかりが集まってしまう中、老弁護士が検察側の主張を一つずつ覆していくところが観ていて面白かった。(手袋をすれば指紋が残らない。血液型はボールもO型。老女の証言はあてにならないなど)

さすが古ダヌキ!と思っていたのだけど、ここでボールの奥さんが登場して夫は犯行時刻に家にいなかったと証言してしまう。それまでは犯行時刻に家にいたと警察にも弁護士にも説明していたのだけど、老弁護士は愛妻の供述はアリバイにならないと判断して彼女の証言を求めなかったのだ。

彼女はボールと結婚した時点ですでに夫がいて重婚の状態だったり、ドイツからイギリスへ移るために彼を利用したのではないかという疑惑があったり、なかなか謎の多い女性だ。彼女が嘘をついているのか、彼が嘘をついているのか私には全然わからなかった。老弁護士は裁判が始まる前にボールと奥さんの両方に「片メガネのテスト」というものをして発言が信用できるかどうかを確かめていたのだけれど、このテストにどういう効果があったのかも私にはよくわからなかった。老弁護士は彼の無実を確信していたのだろうか??

未亡人に近づくボールは婦人のことを内心バカにしているのに彼女から自分の発明に出資してもらうことを期待して彼女に取り入るような態度を取っている。明らかに信用できない男という感じがするんだけど、だからといって殺人犯だと決めてしまうわけにはいかない。彼が遺産の相続人が自分になっていることを知った時のリアクションも芝居をしているようには見えなかったし、彼が犯人なのかどうか私は考え込んでしまった。

ボール夫人の証言が有力な証拠になりボール有罪の方向に傾いていきそうになったところで、老弁護士に垂れ込みの電話がかかってくる。その電話に助けられ、ボール夫人がマックスという男に宛てた手紙がボール夫人の証言を覆す証拠として採用される。手紙を読み上げる老弁護士に向かって、「それは私の便せんじゃない。私のはブルーでイニシャルが入っている」と彼女は言い、その発言のせいで老弁護士が隠し持っていた手紙の束が彼女の出した手紙だということが明らかになってしまう。ここで自分の便せんの柄を明かした彼女は老弁護士の罠にかかったように見えるのだけど、実は彼の裏をかいている。この辺のどんでん返しが私には全然見破れなかった。彼女は有罪の証言を覆すためにあえて検察側の証人になっていたのだ。恐ろしい女性だと思ったのだけど、そんな彼女も実は騙されていて、それが明らかになる結末が切なかった。

裁判が佳境に入るあたりで老弁護士がココアと称してブランデーを法廷に持ちこんだり、裁判中に薬をテーブルに並べたりするのが興味深かった。戦うためにはそれが必要なのかな。あんなに休暇とココアを勧めていた看護師さんが老弁護士に仕事用のカツラとブランデーを手渡すラストシーンがよかった。

監督:ビリー・ワイルダー
脚本:ビリー・ワイルダー
原作:アガサ・クリスティ検察側の証人