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ツイッター @hyokofuji ミサ

【映画】ブリキの太鼓

ブリキの太鼓』 1979年 西ドイツ・フランス

大人にならないと決めた3歳の男の子オスカル。彼は成長を止めるためにわざと地下室の階段から落ちてしまう。それ以来彼の成長は止まり3歳の姿のまま大きくならないのだけど、それと同時に彼は《太鼓を叩きながら大声を出すとガラスを割ることができる》という超能力を手に入れる。彼がひとときも離さないブリキの太鼓は、母親からのプレゼントだ。

広場で行進曲が演奏されている中、彼が違うリズムで太鼓を叩き、広場を舞踏場にしてしまうシーンがすごく好き。3歳の子どもの姿なのに、大きな目をグリグリさせてにこりともしない彼に惹きつけられてしまった。

サーカスを見に行った彼が彼と同じように10歳で成長を止めた53歳のサーカス団員と出会う。この団員はオスカルに入団を勧めるのだけど、彼は断ってしまう。のちにサーカス団員と再会した彼が一座のアイドル的女性に惹かれて入団し、パリでの公演に参加する。

エッフェル塔の下に立った彼がエッフェル塔を見上げながら「おばあちゃんのスカートみたい」という場面が印象的だった。彼の祖母はスカートを4枚重ねてはいていて、その中に人をかくまったりするのだ。

誰かと誰かが出会って子どもが生まれたり、誰かが亡くなるきっかけを誰かが作ってしまったり、そういう瞬間が繰り返し訪れるなかで月日は流れていく。大人を嫌悪して子どもの姿のままでいる彼も、子どものままでいられるのは見た目だけだ。彼にも汚いところやズルイところはちゃんとある。それが窺えるシーンが滑稽でよかった。21歳になった彼はブリキの太鼓を手放し、大人になる決心をする。

母親の胎内にいた彼が、キレイなものばかりではないこの世の中に出てくることを選んだのは、彼の母が「ブリキの太鼓をプレゼントしてあげる」と約束したから。出てくるのを渋るのも当然だと思うほど見苦しいものだらけの世界だけど、愉快なできごともたくさんあって、悪いことばかりじゃないところがいい。彼に愛情をかけてくれるたくさんの人たちに、彼が出会えたのが何よりもよかった。

ギュンター・グラスの原作も読んでみたい。

監督:フォルカー・シュレンドルフ

脚本:フォルカー・シュレンドルフ ジャン=クロード・カリエール

原作:ギュンター・グラスブリキの太鼓