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ツイッター @hyokofuji ミサ

【本】失恋

『失恋』 鷺沢 萠 (新潮文庫

4つの短編からなる作品。

「欲望」
バブル期に、出してはならない所に手を出してしまった夫を助けたいとは思うのだけど、もう手に負えないところまで事態は悪化していて…。愛する夫を救いたいと思うことを自分勝手な欲望だと考える主人公の自分に対する厳しさに好感がもてる。

「安い涙」
十七で両親を亡くした幸代は親戚に土地家屋を含む両親の財産を奪われ、十八で東京に出た。「ここで食えなければ帰れる場所がない」という切羽詰まった意識と頼れる者がいないという「強み」で何とか暮らしてきた幸代だけど、その「強み」が三十代後半にさしかかると「弱み」に変わってしまう。

他の二つの短編も含めて失恋の話というより誰かとの関係が思うようにいかないもどかしさが描かれる。その場その場で適当に振舞っていれば円滑にいく表面的な付き合いと違って、ある程度関係が深くなるとお互いが背負っている今までの色々が顔を覗かせてしまう。それが原因で起こってしまう仲違いは、その人がその人である限り避けようがないのだけれど、そうとわかっていてもやっぱり傷ついてしまう。人を好きになったり大事に思ったりすることの複雑さが描かれていてよかった。