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【本】出禁上等!

『出禁上等!』 ゲッツ板谷 (角川文庫)

ゲッツ板谷が今まで足を踏み入れたことのない場所に突撃してレポートを書いたもの。『週刊SPA』の連載(2003~2004年)の書籍化。

自分のことをボキと呼ぶこの男は39歳なのだが、今まで文化的なものには全く興味がなかったらしい。思春期の頃はシンナーを吸うか女の子を追いかけるか生意気な奴に喧嘩を売るか…ってことしかせず、大人になっても暇な時はスーパーの中を出口から逆回りしたり、車の中で一人アカペラカラオケをやったり、お風呂場の排水口にタオルを詰めて赤ちゃんプールを作って仰向けになったりしていたそうだ。素敵な休日の過ごし方…。

そんな男が宝塚歌劇やバレエや歌舞伎を観に行ってどんな感想を書くのか、楽しみにしながら読み進めた。私も文化的なものやイベントにはあまり興味がなくて、生で見たことがあるのはカジヒデキのライブと柳家小三治の独演会だけだ。だからまず歌舞伎やバレエ、ディナーショーの料金の高さにビックリしてしまった。私も自腹だったら絶対行かないなって思うのだけど、自分の行ったことのない場所に突撃してそれをレポートしながらガンガン突っ込みを入れていくのは楽しそうだ。突撃する場所のセンスが凄くいいし、突っ込みも的確。

文句をつけているのに感情の垂れ流しになっていないところが絶妙。基本的には悪口なのに読んでいて全然嫌な気分にならない。自分の思ったことを正直に書いているだけで、いい時も悪い時も感情を上乗せしていないところが好感をもてる理由なのかもしれない。

彼が訪れるのは、自分にはその魅力がわからないのに人がたくさん集まっているところ。六本木ヒルズ木下サーカスユーミンのライブ、劇団四季相田みつを美術館、宝塚歌劇熊川哲也のバレエ、防災館、かち歩き大会、清掃ボランティア、いっこく堂ディナーショー、NHK青春メッセージ、初春大歌舞伎、世界らん展などなど…。行ってみてやっぱり面白くなかったところもあれば、意外に楽しめるところもあって、その違いを比べていくのも面白い。場所だけではなく、中谷彰宏の本やベストセラー『バカの壁』を読んだりもする。

坊主、サングラス、巨漢という外見からいかつい印象を受けたのだけど、「人体の不思議展」や「防災館」、「ペットフェスタ」での怖気づき方がかわいくて好感を持ってしまった。「いっこく堂のディナーショー」で舞台に上げられ、ものすごく真面目にいっこく堂をサポートしちゃうところも素敵だった。

中谷彰宏に突っ込みを入れるところで、「お前は辺見庸さんや宮部みゆきさんの前で自分も作家だなんて言えるのか?」と言っていて、この二人を出してくるところが私のツボだった。パッと見た感じ「私と世界の違う人」って感じがするのだけど、共感できる部分が多くて驚いた。

「勘だけど」「直感だけど」と前置きして言い放つ一言がすごく面白い。特に面白かったのは「NHK青春メッセージ04」を観覧した時の出場者に対する印象を語る部分。

「直感だが、子供の頃に親の気を引こうとレゴブロックを2~3度飲み込んでる男のような気がした」(p.241)

どんな男だよ!!よくわからない例えだけど、何となくわかるような気がしてくるから不思議。妙に具体的なのがいい。

ユーミンのライブに行った時の「ユーミンはオレにとってセクシーな五色沼のような存在だった…」という一文や、宝塚歌劇のラスト20分を「狂った飛び出す絵本のよう」と表現するところもよかった。

『あらすじで読む日本の名著』というようなシリーズをありがたがって読む人のことを「得々バカ」って言っちゃうところも、最低限の言葉で本質を見事についているところがすごい。「バカには『いいバカ』と『悪いバカ』がいる」という自分のバカ論を展開するのだけど、「いいバカは人に迷惑をかけることもあるが人をホンワカさせてくれる。悪いバカというのはただ人の神経を消耗させるだけの奴」ってところに頷いてしまった。ゲッツ板谷の周りに集まっている「いいバカ」の代表が彼の父親なんだけど、この人の言動には私も何度も笑わせてもらった。来年70になる父が突然「俺、不思議なんだけど、覆面を買いたいんだよな…」とつぶやく。「こういう一言が聞けるからバカの城壁の中にいるのが好きなんだ」っていうゲッツ板谷の感覚はよくわかる。彼の家族はぶっ飛んでいて、一緒にいると大変そうだけど楽しそう。あとがきについていた弟の文章がひどすぎて笑った。ゲッツ板谷の親友キャームは、いまだに「イタヤくん、遊ぼ~っ!!」と外で叫んでからウチに上がってくるそうだ。「いいバカ」は人をホンワカさせるって、その通りだな。