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ツイッター @hyokofuji ミサ

【映画】キッズ・オールライト

キッズ・オールライト』 2010年 アメリ

同性愛カップルが精子提供を受けて産んだ二人の子どもを育てている。姉ジョニは18歳。弟レイザーは15歳。二人のママがいるちょっと「普通」からはみ出した家庭だけど、四人とも幸せそう。

弟の頼みで姉が精子バンクに電話し、生物学上の父親と会う約束を取り付ける。姉と弟の父親は同一人物なのだ。父親のポールはレストランを経営する優しくて陽気な男だったのだけど、三十代後半という年齢のわりに責任感がとぼしくてちょっとチャラチャラした感じ。姉は彼に惹かれるのだけど、弟は「自分が一番大事って感じの人」と彼に厳しい評価を下す。

父親に会いに行ったことは二人のママに内緒だったのだけど、「ゲイではないか」という疑いをかけられ、「隠し事があるんじゃないか」と二人から問い詰められた弟が、姉と一緒に父に会いに言ったことを白状してしまう。弟がゲイの疑いをかけられていたことに気付くのは父に会ったことを白状したあとだ。このシーンでの親子のやり取りが面白かった。どうして男同士のポルノを見るのかと息子から尋ねられ、ついつい本音を行ってしまう母ジュールスのキャラクターが魅力的。

彼女は自分が力を発揮できる場所をまだ見つけられずにいるようで、その点でもう一人の母ニックに対してひけ目を感じているようだ。ニックはお医者さんで完璧主義なのだけど、心配性で気の弱いところもあるので、取り乱すたびにジュールスに助けられている。お互いの足りないところを上手く補いあっているいい夫婦だ。ちょっとした不満はありながらもそれを上手くやり過ごしながら日常を送っていた二人。だけど子どもたちの父親の出現で徹底的に衝突することになってしまう。

同性愛カップルと精子提供でできた子どもという特殊な状況設定だけど、そこで起こってくる問題はどの家庭にも当てはまることだ。ジュールスがニックを裏切ってしまったあと、自分の非を認めて誠実に対応するところがよかった。彼女の謝り方は配偶者であるニックと二人の子どもたちを愛しているということがちゃんと伝わってくる謝り方だった。

結婚生活についてジュールスが語ることは本質をついている。結婚生活というのがお互いの欠点を暴きたてるものだというのはその通りだ。愛する相手に目を向けることがいつの間にか醜い自分に直面することに変わってしまう。そこで自分と向き合わずに脇道にそれて行ってしまったジュールス。彼女のしたことをニックが許せなかったとしても仕方ないとは思うのだけど、ジュールスのように自分がニックを傷つけたことを認めて、自分の間違いや弱さと正面から向き合ってこれからやり直そうとしてくれるなら、彼女の過ちは二人の絆をより強めるのに役立ってくれるかもしれない。

二人の子どもたちジョニとレイザーを見ていると、二人の母親が築いた家庭は簡単に壊してしまっていいものではないということがよくわかる。

子どもたちの出現で家庭に憧れを持ってしまったポールには悪いけれど、いくら血がつながっているとはいえ、彼がここに入っていく余地は全くない。生物学的に父親であることと子どもたちの父親になることとは別のことだし、気ままな独身生活から足を洗おうと決めた彼なら、これから自分の家庭を築いていけるだろう。一生独身でも構わないと私は思うのだけど。

「家族とは何か」というテーマをユーモラスに描いていて、深い内容なのに気楽に楽しんで観ることができる作品だった。

頭がよくて真面目で、真面目な自分をちょっと嫌だなと思っている十代の女の子が私は好きなので、そんなジョニを演じるミア・ワシコウスカが大好きになってしまった。彼女はこの役にピッタリ!同じ理由で『17歳の肖像』で主人公を演じるキャリー・マリガンも大好き。

監督:リサ・チョロデンコ

脚本:リサ・チョロデンコ スチュアート・ブルムバーグ