【本】通天閣
ガラが悪いといわれる大阪南部。
昼間から酔っ払いがウロウロする、串カツで有名な界隈に、ニョッキリ聳え立つ通天閣。
その足もとで生活する冴えない中年男と、恋人に捨てられつつある若い女。
女が働くスナックの名は「パーっと、いわしたろか」の「いわし」からとって「サーディン」。
そんなふざけた店で、どうしようもないオーナーやママ、ホステス達に囲まれて働きながら、「恋人と自分は別れた訳ではない」と言い聞かせて毎日を送る。
中年男は、工場、食堂、喫茶店、銭湯、コンビニ、自宅をぐるぐる移動するだけの毎日を送る。
一日一日をただただこなしていくのが男の目標とする生き方。
ある冬の日、通天閣で騒動が起きる。
それをきっかけに二人の気持ちにちょっとした変化が表れて…。
馬鹿馬鹿しく笑える出来事の陰に、切なさや悲哀を潜ませ、どん詰まりの人びとを描いていくところがいい。
華やかではないけれど妙にエネルギッシュなこの街の魅力が作品に生かされている。
関西弁の小説は今まで何冊か読んだけど、舞台が大阪であることの必然性を最も強く感じたのがこの作品。