2020-01-08から1日間の記事一覧
『決断力』 羽生善治 (角川書店) 将棋を指す上で、一番の決め手になるのが決断力。 将棋ではたくさんの手を読むことや、研究によって知識を蓄えることだけでなく、〈よさそうな手〉を絞り込むための直感力が要求される。 その直感力によって生み出されるの…
『編集者T君の謎』 大崎善生 (講談社文庫) 『将棋世界』という雑誌の編集長を務めた著者が、将棋業界の人びとについて書いたエッセイ。 ユニークな人たちが登場して、将棋のルールを全く知らなくても楽しんで読める。 序盤から時間を使って考え込む、加藤…
『愛』 井上靖 (角川文庫) 「結婚記念日」 奥さんを亡くして二年の、37歳の男が主人公。 彼の妻は生前、ケチだと言われ、親戚からあまり評判がよくなかった。 そのため、男が再婚の勧めを断り続けるのも、前の奥さんで懲りたためだと、周りの人間に思わ…
『All Small Things』 角田光代 (講談社) 32歳の長谷川カヤノ。 最近恋人ができたけど、どちらかの家でご飯を食べて泊まっていくというだけで、デートらしいデートをしたことがない。 そういえば、まともなデートをしたこともなく、この歳になってしまっ…
『代筆屋』 辻仁成 (海竜社) 手紙を書くのが大好きなので、図書館で見かけて手にとってしまった。 小説家になったばかりの主人公が、副業でやっていたのが代筆屋。 依頼主の気持ちが届くように、手紙を受け取った人の心を動かすような、勝負手紙を書く。 …
『指輪をはめたい』 伊藤たかみ (文春文庫) 自分を捨てた女を見返すため、30歳までに誰かと結婚しようと決めた主人公。 並行して付き合っていた三人の女性のうち一人に絞り、結婚指輪を購入。 だが、その日にスケートリンクで頭を打ち、数時間分の記憶を…
『キッチン』 吉本ばなな (福武書店) 両親を亡くし、祖父母に育てられたみかげ。 中学生の頃に祖父が亡くなり、大学生になって祖母も亡くなってしまう。 祖母と二人で住んでいた家を引き払って、もっと小さくて安い部屋に引っ越そうと思うけど、なかなか行…
『漢方小説』 中島たい子(集英社) 原因不明の震えに襲われ、救急車で搬送される、31歳の独身女性。 救急車の中で震えは治まったものの、診察を受けても原因がわからない。 その後、4軒回った病院でも「どこも悪くない。」と言われ…。 医者は検査の結果…
『通天閣』 西加奈子 (筑摩書房) ガラが悪いといわれる大阪南部。 昼間から酔っ払いがウロウロする、串カツで有名な界隈に、ニョッキリ聳え立つ通天閣。 その足もとで生活する冴えない中年男と、恋人に捨てられつつある若い女。 女が働くスナックの名は「…
『さくら』 西加奈子 (小学館) 読書やチェスを好む物静かな父に、明るく元気な母、ハンサムで人気者の兄に、美人で乱暴者の妹、さくらと名づけられたブチのあるメスのわんちゃん。そんな家族に囲まれて暮らす次男が主人公。 妹の誕生を喜んで、兄と二人で…
『私と20世紀のクロニクル』ドナルド・キーン(中央公論新社) ドナルド・キーンが自分の9歳から84歳までを記す。 ニューヨークで育った彼は、9歳で父親のヨーロッパ旅行へついて行く。 アメリカで育った彼が、自国と外国との文化の違いに初めて気付い…
『理由』宮部みゆき(新潮文庫) 高層マンションの一室で起こった殺人事件。 発見されたのは、四人の死体。 室内に中年男女と老女の惨殺体。 階下にはベランダから転落したとみられる若い男の死体。 この殺人事件を中心に、事件に関わった人びとを家族関係に…
『閉鎖病棟』 帚木蓬生(新潮文庫) 精神科病棟を舞台に、様々な過去を持つ入院患者の姿や病院内で起こった事件が描かれる。 病院の恒例行事、演芸会。 患者達が出演する劇が上演されることになった。 看護婦さんに頼まれて脚本を担当することになったチュウ…
『床下仙人』 原宏一(祥伝社文庫) 家庭や会社を舞台にした、ちょっと不思議な5つの短編。 新築の家に仙人みたいな男が住み着いてしまう『床下仙人』 人々の記憶には残っていないのに、記録上は確かに存在している『てんぷら社員』 マンションを砦に、男性…
『永遠の出口』 森絵都 (集英社) 「永遠」という言葉に弱い女の子が主人公。 自分が見逃したものや、食べそびれたものがこの先永遠に手に入れられないと感じると、いてもたってもいられない。 とんでもないミスをしてしまったと思い、焦燥に駆られ、言い知…
『もの食う人びと』 辺見庸 (角川文庫) 主張がない。 まとまりがない。 そこがいい! 「これを主張するために、この情報を持ってくる。」というような作為のあとがない。 ダッカで残飯を食らうところから始まり、30ヶ所以上で現地の人々と食事を共にする…
『世界は「使われなかった人生」であふれてる』 沢木耕太郎沢木耕太郎の映画評を読んだ。 映画評といっても、「何が傑作で何が駄作だ」と言う風に上から評価を下すタイプのものではなく、感想文のようなもので読みやすかった。 映画には「ありえたかもしれな…
『空中ブランコ』 奥田英朗 奥田英朗は面白い。 『イン・ザ・プール』が面白かったので、もう一つ読んでみた。 どっちも精神科医・伊良部が登場する。 『空中ブランコ』は五つの短編からなるが、一番面白かったのが『義父のヅラ』 強迫神経症の例と言えば普…
『ファインマンさんは超天才』 クリストファー・サイクス 原子爆弾の開発やチャレンジャー事故の調査にも関わった天才科学者ファインマン。 彼の友人や家族、本人も登場して彼について大いに語る。 この本では科学者に必要な資質として、次の三つが挙げられ…
『お葉というモデルがいた』金森敦子 竹久夢二、伊藤晴雨、藤島武二。 タイプの違うこれらの画家のモデルを務めた佐々木カ子ヨ(かねよ)【お兼】。 彼女は夢二につけられた【お葉】という名で一般に知られる。大正という時代、女性の裸体を芸術的な美意識で…
『聖の青春』 大崎善生 重い腎臓病を患いながら、名人を目指す棋士、村山聖(さとし)。 病気の弟子のために、パンツも洗うし、少女漫画も買いに走る、愛情溢れる師匠、森信雄。 この二人と同じ部屋で眠ったり、一緒にご飯を食べることもある仲だった将棋雑…
宮部みゆき『火車』休職中の刑事、本間のもとに親戚の青年が現れる。 青年は本間に、突然姿を消した婚約者の捜索を依頼する。 徹底的に足取りを消して失踪する彼女は、どんな問題を抱えていたのか。 推理小説でありながら、クレジットカードや消費者金融の問…
小川洋子『沈黙博物館』村の人びとの形見を老婆が集め、それを展示する博物館を建設する。 収集する形見の条件は、肉体が存在した証拠を最も生々しく記憶しているものであること。 〈死を完結させる品〉は、〈過去を閉じ込める箱〉ではなく、〈死後の世界を…
太宰治の『人間失格』『斜陽』『津軽』を読んだ。 『人間失格』では、人間の難解さに苦しむ男が、薬物中毒になって、社会から隔離される。 『斜陽』では、没落貴族の長男が貴族としての自覚を持つことができず、かといって不良になりきることもできず、苦悩…
ドストエフスキー『死の家の記録』 五年以上前にさらっと読んだのをもう一度ちゃんと読み直してみた。 主人公、アレクサンドル・ペトローヴィチは、貴族出の移住囚。 10年の刑期を務め上げ、小さな町でひっそりと暮らしていた。 人付き合いのほとんどなか…
大泉実成 『麻原彰晃を信じる人びと』オウム内部で、教団の関与した犯罪行為はどのように受け止められていたのだろうか。 不思議なことに、サリン事件後も一般信者が次々に脱会するようなことはなく、淡々と修行が続けられていたそうだ。 オウムバッシングに…
村上春樹『アンダーグラウンド』1995年3月20日 いつも通り地下鉄に乗って、会社に向かっていたら、気分が悪くなってきた。 今日は風邪薬を飲んできたから、きっとそのせいだろう。 乗客の中にも咳をしている人が目立つ。 (風邪がはやっているのだろ…