There's a place where I can go

ツイッター @hyokofuji ミサ

【本】決断力

『決断力』 羽生善治 (角川書店) 

将棋を指す上で、一番の決め手になるのが決断力。 
将棋ではたくさんの手を読むことや、研究によって知識を蓄えることだけでなく、〈よさそうな手〉を絞り込むための直感力が要求される。 
その直感力によって生み出されるのが大局観(全体を判断する目・本質を見抜く力)であり、こういった力がついてくると、決断を下す時に百手も二百手も読んでみる必要がなくなるらしい。 

大局観で戦うためには、経験を生かして思考を省略しなければならないらしいのだが、この〈経験を生かす〉というのが難しそうだ。 
経験を積むと、選択肢が増える分、迷いや不安も生じる。 
経験を生かそうと思えばそういったマイナス面を克服する精神的な強さも同時に成長させないといけない。 
そう聞くと、研究や分析がいくら進んでも、将棋というのは、技術の勝負に尽きない人間と人間の戦いなんだなぁと感じる。

羽生さんは直感力のもとになるのは感性で、それは読書をしたり、音楽を聴いたり、将棋界以外の人と会ったり…という様々な刺激によって研ぎ澄まされていくものだと考えている。 
そのため、日常生活では将棋から離れ水泳やスポーツ観戦を楽しむなど、空白の時間を作るよう心がけているそうだが、それは感性を磨くためだけでなく、勝負どころで集中力を発揮するためにも役立ってくれるのだろう。 

昔は「新手一生」(新しい戦型を創造すると一生使える)といわれたそうだが、今はインターネットで棋譜が出回るため新しい手もあっと言う間に研究されてしまう。 
「新手一生」どころか「新手一回」になってしまったという。
そのため、何年もかけて学んできたことが戦術として通用しなくなることも珍しくない。 
それでも勉強する過程で身につけた思考力や勝負への対処法は、決断力や構想力、大局観を豊かにする糧になると羽生さんは言う。 

近道思考を排し、独力でじっくり考え、自分なりのスタイルや信念を持つ。 
勝てない時期も前に進む意欲を持ち続け、報われないかもしれないところで、情熱を継続していく。 
羽生さんの並々ならぬ強さの秘密が少しわかったような気がする。