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ツイッター @hyokofuji ミサ

【本】代筆屋

『代筆屋』 辻仁成 (海竜社) 


手紙を書くのが大好きなので、図書館で見かけて手にとってしまった。 

小説家になったばかりの主人公が、副業でやっていたのが代筆屋。 
依頼主の気持ちが届くように、手紙を受け取った人の心を動かすような、勝負手紙を書く。 

代筆屋曰く、 
「書いている人間の気持ちは必ずといっていいほど文面に出る。心配もしていないのに、心配を押し売りするような手紙を書いてはいけない。そのような気持ちは封を開いた瞬間に、真っ先に相手に届いてしまう。それが手紙の一番に恐ろしいところと言えよう。」 

代筆屋に必要なのは文章力だけではない。 
依頼主の気持ちにどこまで近寄れるかが、腕のみせどころ。 

手紙を書くとなると、ついつい、「失礼のないように」と、気を遣って、形式的になってしまいがちだ。 
それだと、自分が「失礼な奴だ」と思われるのを防ぐことはできても、 
肝心の気持ちが伝わらない。 
気持ちを伝えようと思うと、少し捨て身にならないといけないのかもしれない。 

手紙のいいところは、真面目な関係を築くのに役立ってくれるところ。 
それはきっと、手紙を書くときに「自分が相手に対してどういう気持ちを持っているか」という事に、向き合う必要が出てくるからだと思う。 

作中の手紙は色んなタイプのものがあって、依頼主の年齢も様々。 
名前も知らない人に出すラブレター。 
病気のおばあちゃんを励ます手紙。 
別れた彼氏とよりを戻すための手紙。 
65年連れ添った、90歳の夫に離婚を言い渡す手紙。 
「これはいい手紙だ」と思ったり、「こんなんで大丈夫か?」と思ったり…。 

もともと手紙が好きなのだけど、この本を読んで改めて手紙の力を感じ、私も「勝負手紙」を書きたくなってしまった。 
今の私には残念ながら「どうしても伝えたい想い」なんて、ないのだけれど…。