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ツイッター @hyokofuji ミサ

【本】理由

『理由』宮部みゆき新潮文庫) 


高層マンションの一室で起こった殺人事件。 
発見されたのは、四人の死体。 
室内に中年男女と老女の惨殺体。 
階下にはベランダから転落したとみられる若い男の死体。 

この殺人事件を中心に、事件に関わった人びとを家族関係に焦点を当てて描いていく。 

家族というものは、血がつながっていようといなかろうと、お互いに家族としての役割を期待する以上、相手を縛ったり相手に不自由な思いをさせる部分が出てきてしまう。 
お互いがお互いを邪魔だと感じる可能性は、どんな家族にも含まれている。 
だから家出や失踪という形で、家族との縁をスパっと断ち切ったつもりでも、また新しく誰かと生活することになれば、同じような煩わしさに悩まされることになる。 
その煩わしさが殺意に変わることはほとんどないだろうけど、正気と狂気が紙一重だということを感じてしまった。 

「楽して金儲けしたい。」とか「他人を出し抜きたい。」といったちょっとした欲望もこの事件が起こる素地になっていて、法的に殺人の罪に問われる犯人以外にもこの事件に責任を感じるべき人たちが複数登場する。 
そういった人たちの持つ背景や心の動きも興味深い。 
ちょっと問題はあるけれど「悪人」とまでは言えない人たちの言動が積み重なって、少しのズレが最終的に凶悪な事件に繋がってしまうというところが何とも悲しい。 

火車』に引き続き、宮部みゆきを読むのは二冊目。 
人間の黒い部分やちょっとした隙を書くのが上手くて、今回も引き込まれてしまった。