【本】火車
休職中の刑事、本間のもとに親戚の青年が現れる。
青年は本間に、突然姿を消した婚約者の捜索を依頼する。
徹底的に足取りを消して失踪する彼女は、どんな問題を抱えていたのか。
推理小説でありながら、クレジットカードや消費者金融の問題、この時代を生きる人々の心理にまで触れていて読みごたえがある。
クレジット・サラ金問題については、作中の弁護士が丁寧に説明してくれる。
彼の話を聞いていると、この問題が借金をする本人だけの問題ではなく、社会全体の問題であるということがよくわかる。
そうはいっても、消費者信用の産業構造の問題だけでは、人が借金地獄に陥る理由を説明しきれない。
誰もが持っている、「夢を叶えたい」とか「幸福になりたい」という願望が、場合によると借金生活に陥るきっかけに変わってしまう。
作中の登場人物は幸福について、《「あるべき自分の姿」を自分の努力で現実のものにできる人》が一番幸せなのだと語る。
《「あるべき自分の姿」を見つけられない人》もいれば、《どれだけ望んでも実現できない人》もいる。
昔は、《自分で夢を叶えるか》、《現状で諦めるか》のどちらかを選ぶしかなかった。
今はそこに第三の選択肢が加わる。
《夢が叶ったような気分に浸る》という選択肢。
自己破産した女性の「幸せになりたかっただけなのに」という呟きが痛切に響く。