【本】All Small Things
『All Small Things』 角田光代 (講談社)
32歳の長谷川カヤノ。
最近恋人ができたけど、どちらかの家でご飯を食べて泊まっていくというだけで、デートらしいデートをしたことがない。
そういえば、まともなデートをしたこともなく、この歳になってしまったような気がする。
周りの友達はどうなんだろう。
きっと、素敵なデートをしているに違いない。
ということで、友達に尋ねてみた。
「今までで一番印象に残ってるデートって、どんなの?」
そこで友達が話してくれたのは、すごくユニークなんだけど、とてもデートと呼べるようなものではなくて…。
話してる本人も、「印象に残るデートと言われて、どうしてこんなしょぼい話が浮かんだんだろう」と不思議になる。
そこで、その夜、ダンナに尋ねてみる。
「あなたの記憶のなかで、もっともデートとはいえないようなデートってどんなの?」
そう言われてダンナが思い出したのは、デートらしくないけど、とても幸せだった、中学生の頃のデート。
デートの内容も詳しく覚えていないという有様で、「こんなのデートとは呼べないな」と呟くダンナに、奥さんは「それもれっきとしたデートよ」と、真剣な顔で答える。
その次の日。
会社で、ダンナが部下の女性にした質問は、
「恋愛のさなかで一番幸福だと思ったのはどんなときか。」
そう質問された部下は、その日のお風呂で4歳の姪に次のような質問をする。
「好きな子と一緒でよかったーって思ったことある?」
さらに、姪が幼稚園に迎えに来てくれた祖母に尋ねる。
「ジイジと結婚して一番良かったことってなあに?」
そう尋ねられて、祖母は結婚前の夫とのデートを思い出す。
しけた居酒屋に連れて行かれた、ぱっとしないデートだったのだけど…。
その祖母がジムでインストラクター女性にぶつけたのが次の質問。
「一番むかついたデートってどんなの?」
尋ねられた女性は史上最低のデートを思い出しているのに、なぜか顔がほころんでしまう。
そしてジムの男性会員に尋ねる。
「思い出すだけでにこにこしちゃうデートってありますか?」
そこで男性が思い出したのは、にこにこじゃなくて「にやにやしちゃうデート」。
男性の思い出した、三十数年で一回こっきりの「にやつくデート」の詳細は、かなり笑える。
その男性が行きつけの和風居酒屋で尋ねたのは、
「自分が自分でなくなったような恋をしたことはあるか」
「ない」と、即答したアルバイトの女の子が思い出したのは、不倫相手と公園でパンを食べたデート。
この話を聞かされた女友達は全く共感できないのだけど、兄にその話をすると、「すごく些細なことが奇跡の一瞬だったりするんだ。」と言われる。
そして奇跡が日常に溢れていると感じている兄が彼の恋人に尋ねる。
「十円を拾って奇跡みたいだって思ったこと、ある?」
兄の恋人は思う。
彼は十円を拾うことを簡単なことだと思っているのかもしれないけど、簡単に思えるそんなことだって、自分の身にはなかなか起こらないことだったりするのに。
作中の登場人物が思い出すのは、どれもしょぼい出来事。
この本には、100人分の「心に残るデート」も収録されているのだが、ヘリコプターに乗せてもらったり、高級レストランに連れて行ってもらったというような話は全く出てこない。
お金や時間をかけて計画を練りさえすれば実現できるデートよりも、みみっちくて幸せなデートの方が貴重なんだろうなぁ。
狙ってできるもんじゃないし。
私も友達に、どんなデートが印象に残ってるか、聞いてみようかな。 hings