【本】もの食う人びと
『もの食う人びと』 辺見庸 (角川文庫)
主張がない。
まとまりがない。
そこがいい!
「これを主張するために、この情報を持ってくる。」というような作為のあとがない。
ダッカで残飯を食らうところから始まり、30ヶ所以上で現地の人々と食事を共にする。
現地に赴き、その土地で人々が食べているものと同じものを一緒に食べる。
ただひたすら食べる。
食べ物のにおい、味、作る過程、それを食べる人々の表情や思い、そういったものを細かいところから記録していく。
チェルノブイリの危険地帯。
統一前まで東ドイツが運営していた刑務所。
ウガンダのエイズの村。
ベトナムの最低運賃の車両。
ポーランドの炭鉱。
どんな生活をしていても人びとは毎日何かを食べている。
『美味礼讃』には、「禽獣は食らい、人間は食べる。教養ある人にしてはじめて食べ方を知る。」とあるらしいが、辺見庸に言わせれば「人もまた禽獣並みに食らう。富める者はおそらく優雅に食らっているだけ」なのだそうだ。
辺見庸は食を共にすることで、世界各地の人びとと出会う。
そして、自分の感覚で受け取った、人びとの様子を記していく。
読んでいると、苛酷な生活を強いられる人びとの姿にも衝撃を受けるが、肩書以前の生身の人間を見せつけられることで、その人間を囲む国家というものが何なのか考えさせられる。
そして、一人一人の人間を苦しめている問題のあまりの大きさに、暗澹とした気分になる。