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逸翁美術館

呉春の「白梅図屏風」が見たくて、池田市にある逸翁美術館へ行ってきた。


市役所の前をずっと五月山の方へ歩いていく。 
美術館はすぐわかるところにあった。 

中に入ると一番に目に付いたのが「白梅図屏風」 

右隻に描かれた老木の枝の様子がいい。 
曲がりくねっていて、年月の重みを感じさせるし、何度も冬を越え、風雪に耐えてきたって感じがする。 

藍色に染めた糸を織ってその布を屏風に貼り付けているので、布の染むらが縞模様になっている。 
色は藍色というより緑がかった灰色に見えて、重々しい雰囲気の色なんだけど、縞模様のせいで不安定な感じに見える。 
それが、これから変化していく空の色を連想させる。 
夜明け前の空だ。 

夜明け前の空気には、白くて可憐な梅がよく映える。 
梅にも色んな色のものがあるけれど、この空気の色にはやっぱり白梅だなぁ。 

次に見たのも呉春の作品。 
「桜花遊鯉図」 

桜と鯉が描かれている。 
樹木などの静物と魚や鳥などの動物を同じ画面に描き、静動の妙を表わすのは、写生派の典型的な作風らしい。 
桜の生える地面と、鯉の泳ぐ水面、枝が伸びている空、その三つの境が曖昧なのがよかった。 
春の生暖かい空気が感じられる。 

呉春の描いた絵で、印象に残ったものがもう一つある。 
「岩上孔雀図」 

岩の上で羽を休める孔雀というのは、応挙が得意とした画題で、円山派の画家が好んで描いていたもの。 

応挙の弟子、長沢芦雪の描いた孔雀は、羽根の色使いが凄くきれいで、毛の一本一本まで丁寧に描かれ、「写生派の本領発揮!」という感じだった。 

呉春の描いた孔雀もリアルで、尾羽の表現を見ていても、写生の技法が生かされているのがよく分かる。 
ただ、岩の下に生えているタンポポのような草は、何気なく気楽に引いたような線で描かれていて、蕪村の影響を思わせる。
この線の引き方は「洒脱な筆致」と呼ばれたりするようなのだが、応挙と蕪村、それぞれの特徴が融合しているところが面白い。 

私は文人画の軽妙な雰囲気に親しみを感じていたのだが、この展覧会で円山派の写生画を初めて見て、その凄さに圧倒されてしまった。 

円山応挙の「雪中松図屏風」 

松の葉の一本一本まで丁寧に描かれていて、近くで見ると「ところどころ空白になっている部分があるなぁ」と感じていたのだが、離れて見ると雪以外の何ものにも見えない。 
こんな風に雪を表現するのか!と、驚いた。 

呉春の弟子にあたる、小田海せんという人の「桜花小禽図」も見事だった。 

白い桜の花とピンクのつぼみの色使いが、柔らかくて愛らしい。 
小さな鳥も描かれていて、リアルで可愛くて、花鳥画の魅力が存分に出ている作品だった。 
清楚な画風で知られた人だと書かれていたが、本当に上品でいつまでも見ていたくなるような絵だった。 
これが一番気に入った。 

円山応瑞の「朝顔図」には本居宣長の歌が添えられていた。 

「われはまだ かがみも見ぬを いつのまに 
つくろひぬらむ 花のあさ がほ」 

とあるとおり、朝顔の青が鮮やかに目に飛び込んでくる、清新な絵だった。 

29点の作品はどれも魅力的で、呉春を祖とする四条派と、応挙を祖とする円山派の作品に触れられたのがよかった。