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【本】原稿零枚日記

『原稿零枚日記』 小川洋子 (集英社) 


原稿がなかなか進まない作家さんの書いている日記という設定。一日の出来事が記されたあと最後に「原稿零枚」と記される。たまには「原稿五枚」なんて書かれることも。一日分の日記が独立した短編のよう。それでいて初めから終わりまで数日分のできごとがなめらかにつながっている。 

パーティーに出席したり、健康スパランドに行ったり、盆栽フェスティバルに行ったり、旅館で苔料理を食べたり、近所の運動会や子泣き相撲をこっそり見学したり。色んなところに出かけていって、色んな人に出会うのだけど、なぜか一人ぼっちな感じが最後まで漂っている。「寂しい」っていうのでも「孤独」っていうのでもなく、自分がどこから来てどこへ向かっているのかよくわからない心もとなさのようなものが作品全体を流れているように感じた。時間の経過とともに手のひらに乗せた砂が指の間からポロポロこぼれてしまうような感じ。 

子泣き相撲に出場する子どもたちは出番が終わると母親の腕の中ににスポッと収まる。その感じと主人公のどこに行ってもしっくりこない感じが対照的でよかった。