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【映画】或る夜の出来事

或る夜の出来事』1934年 アメリ

スクリューボール・コメディと言われるジャンルの作品。性描写が規制されていた時期に主流になった男女が出会ってから恋に落ちるまでの過程に焦点をあてた作品のうち、特に風変わりな男女が惹かれ合うものをこう呼ぶそうだ。『或る夜の出来事』はスクリューボール・コメディの第一弾とも言われているらしい。

富豪の令嬢エリンが恋人との結婚を反対され親元から逃げ出してしまう。彼女がヨットから海に飛び込むシーンに彼女の気の強さが表れていてよかった。泳いで港まで戻れるものなのかどうか不思議だったけど、とにかく彼女は夜行バスに乗ってニューヨークへ向かう。父親の命令で彼女を追いかけた男たちはお嬢さんがまさかバスには乗らないだろうと考えて、彼女を取り逃がしてしまった。

夜行バスに乗ったお嬢さんは新聞記者の男ピーターと出会う。彼は上司との折り合いが悪く、失業状態。初めはケンカをしていた二人だけど、彼女が恋人の元へ行くのを手伝うかわりに彼はこの失踪事件の独占記事を書かせてもらう約束をする。利害の一致した二人が力を合わせて旅を続け、見事にピンチを切り抜けていくところを見ているのはすごく楽しかった。

ピーターは世間知らずのお嬢さんのお守りをするような感じで、彼女を甘やかされたダメな子ども扱いする。彼女の育てられ方についても厳しいことをはっきり言う。金持ち一族に遠慮して批判的なことを全く言わない人たちに囲まれてきた彼女にとってはそれが新鮮だったのだろう。腹を立てて反論しながらも彼女は彼にどんどん惹かれていく。

記事をお金に換えることが目的だった彼が、父親の提示する賞金に目もくれず彼女の側に立ち続けるところを見ていると、彼もまた彼女に惹かれていることがよくわかる。夜行バスに乗り合わせた男が賞金の山分けを持ちかけた時の彼の演技は最高だった。自分が悪党の一味であるかのような芝居をして相手に信じ込ませてしまうのだ。

記事をお金に換えること、恋人の元に逃げること、という二人の目的が二人にとってそれほど大切なものではなくなってきているのがわかるシーンが特によかった。父親が新聞で「娘の恋人と和解して結婚を認める」と発表したのだ。もう恋人よりもピーターに惹かれてしまっているとはっきり自覚している彼女は恋人のもとにも父親のもとにも戻らずピーターと一緒にいることを望むのだが…。

結末を言ってしまうわけには行かないのでここで止めておくけれど、ストーリーの流れは私にとって新鮮なものでは全くなかった。今までに観た色んな作品と似た印象を受けたのだけど、それはこの作品がそれらの作品に影響を与えていたからなのかもしれない。

決して目新しくない話の展開なのに、それでも観ていて飽きないところがすごい。ヒッチハイクのシーンが大好きで「新婚旅行でヒッチハイクの旅ってどうなんだ??」って思ったけど、二人が楽しそうなのがよかった。二人が同じ部屋に泊まる時にロープに毛布をかけて境界を作り、毛布でできた壁をジェリコの壁と呼ぶところもよかった。ジェリコの壁というのはヘブライ聖書『ヨシュア記』に書かれている城壁のことで、この壁が角笛を吹くと崩れたというエピソードが映画の中で使われている。

全体的にテンポがよくて、二人のやり取りが軽妙で、今観てもオシャレな感じに見えるのがこの作品の魅力だなって思った。

監督:フランク・キャプラ
脚本:ロバート・リスキン
原作:サミュエル・ホプキンス『夜行バス』

第39回東西落語名人選(柳家小三治 道灌) 2013年9月21日

第39回東西落語名人選 2013年9月21日(土)神戸文化ホール

夜の部
シンデレラ伝説 三遊亭白鳥
悋気の独楽 月亭八方
後生鰻 桂歌丸
一文笛 桂福団治
中入
宿屋ばばあ 笑福亭福笑
道灌 柳家小三治

小三治さん目当てで聴きに行った東西落語名人選。二上りかっこが聞こえるだけでドキドキして手が震えてしまう。四列目なので小三治さんが近い。こんなに近くで小三治さんの姿を見るのは初めてなので嬉しくて仕方がなかった。間近で見る小三治さんはとにかくかっこいい。黒紋付がよく似合って素敵だ。同じ空間にいられるだけでも幸せなのに、表情の見える距離で小三治さんの噺が聴けるなんて!噺が始まる前から興奮してしまった。

演目は『道灌』だった。八つぁんがご隠居さんのところに出かけて行ってお喋りをして、ご隠居さんから「雨具の断りの歌」を教わる。八つぁんにはしょっちゅう雨具を借りに来る友だちがいるので、その友だちが雨具を借りにきた時にこの歌を披露して雨具を貸すのを断ろうと考える。ご隠居さんとお喋りをしているうちに雨が降り出しそうな空模様になったので、早速試してみようと慌ててうちに帰って友だちを待ち構えるのだけど…。あらすじを説明するとたったこれだけの噺。場面もご隠居さんちと八つぁんちの二カ所だけだし、登場人物も八つぁん、ご隠居さん、八つぁんの友だちの三人だけ。しかも何度も聴いたことのある噺でサゲはもちろん、そこまでの展開も覚えている。それでも目の前にいる小三治さんが喋り始めると不思議なぐらい自分の気持ちがクルクル動く。よく知っている噺なのにおかしくてたまらなかった。大笑いして「この噺、こんなにおかしくて素敵な噺だったんだなぁ」って、感動した。

「ご隠居さん、こんにちは」「ああ、誰かと思ったら八つぁんかい」このやり取りだけで噺の世界に引き込まれてしまった。何でもないような挨拶を交わしているだけなのに二人がすごく仲がいいのが伝わってくる。八つぁんの受け答えがいちいちおかしくて、その相手をするご隠居さんが優しくて、「ご隠居さんは八つぁんのことが可愛くて仕方ないんだなぁ」「八つぁんもご隠居さんのことを信頼してるんだなぁ」って思うと、二人を見ているだけで幸せな気分になってくる。二人の関係が言葉で説明されなくてもちゃんと見えるから、何気ないやり取りでついつい笑ってしまう。

「隠居さんとこの粗茶はいい粗茶ですね」「この粗茶は安くねぇ粗茶ですよ」と出してもらったお茶を「粗茶、粗茶」と褒める八つぁんを見ているとおかしくてたまらない。「粗茶っていうのは粗末なお茶。へりくだって言ってるんだよ」と当たり前に返事をするご隠居さんにつられて私も八つぁんのペースに乗ってしまう。始終この調子で会話が進んでいくので、一度はまり込んでしまうともうおかしくてたまらない。初めて聴くみたいにワクワクしながら八つぁんの次の発言を待って、八つぁんが何か言う度に大笑いしてしまった。

ご隠居さんの言うことがさっぱりわかっていないのに「そうっすか」と軽く受けて、口を結んでにっと笑う八つぁんが最高だった。ちょっとした表情や目の動きだけで、何も面白いことを言っていないのに笑ってしまう場面が何度もあった。私は小三治さんのこういうところが大好きで、DVDの同じ映像を何度も何度も見てしまったりするのだけれど、この日は生で小三治さんの表情を見られて本当に嬉しかった。小三治さんの落語を聴いていると、小三治さんが複数の登場人物を演じているんじゃなくて、小三治さんの中に登場人物たちが生きていてその一人一人が場面に応じて表に出てくるような感じがする。登場人物の一人一人がものすごく可愛く見えてきて、そこに小三治さんの愛情を感じて、いつの間にか私にとっても登場人物が愛おしい存在になっている。そうすると、ちょっとした発言がおかしくてたまらなくなってしまう。そんな瞬間を作り出す小三治さんの落語が私は大好きだ。

「雨具の断りの歌」を友だちに披露することで頭がいっぱいになっている八つぁんに私もすっかり感情移入してしまって、ご隠居さんに書き留めてもらった歌を片手に「空模様があやしくなってきた!」って飛びだしていく八つぁんとおんなじ気持ちでワクワクした。

期待した通りサーっと雨が降り出して、雨具を持たない人たちが駆け出していく様子を眺めながらうちへ急ぐ場面では、小三治さんの目に映る光景が私の目にも浮かぶように感じられて、何とも言えない広々とした心持ちになった。楽しくてあっという間に過ぎてしまう時間のはずなのに噺の中の時間はゆっくり流れていて、小三治さんの作り出す空気がこのうえなく心地いい。

八つぁんちに飛び込んできた友だちが今日に限って雨具じゃなくて「提灯を貸してくれ」と言うところでは私も八つぁんと一緒にがっかりした。「提灯そこにあるじゃねぇか。貸してくれよ」と言う友だちに「あっても貸さねぇ」という八つぁんが面白くて、友だちの「急にやな奴になったな」って発言もおかしくてたまらなかった。「急に」ってところがいい。「迷惑に思いながらもいつもは貸してあげてるんだもんな。今日も意地悪で貸さないんじゃなくて歌を披露したいだけだし…」って思いながら聴いているから、雨合羽を着た友だちに提灯を貸す代わりに「雨具を貸してくれ」って無理やり言わせる八つぁんのことが可愛くてたまらない。可愛くて、おかしくて、どうしようもなく笑いがこみあげてくる。

渋々ながら「雨具を貸してくれ」と言ってくれた友だちを相手に、待ってましたとばかりに歌の書かれた紙を取り出して、「こっちは女形だからなぁ…」とぶつぶつ言ったあと、突然声色を変えて「お恥ずかしゅうございます」と芝居っけたっぷりにやるところは最高におかしくて、大笑いしてしまった。噺が始まってからずっと笑いっぱなしだったのだけど、進むにつれどんどんおかしさが増していって、「こんなに笑ったことないな」って思うほど思いっきり笑った。

サゲを言って、一瞬笑って、ホールのあちこちに目をやりながら何度も頭を下げる小三治さんに夢中で拍手をした。泣かせるところなんてないひたすら楽しい噺なのに、心の底からいいなぁって思って涙が出た。拍手の届くところに大好きな人がいるのってありがたいことだな、小三治さんと同じ時代を生きられて幸せだなって心から思った。小三治さんが高座から客席に向かって喋ってくれるのがただただ嬉しくて、小三治さんの作り出す噺の世界に入って一緒に楽しめる時間は最高に幸せだ。小三治さんがサゲを言って笑った瞬間「あー、楽しかった!」って思って、すっごく幸せな気分になった。

この日のまくらで小三治さんが「江戸風の噺をやります。江戸の噺じゃないよ。江戸なんて誰も知らないからね!」と言い放ったのがめちゃくちゃかっこよかった。本格的な古典落語を聴きたいと思っている人もいるだろうし、長いまくらを楽しみにしている人もいるだろうし、落語を聴きにいく時にお客さんが期待することはそれぞれ違っているんだろうけど、私はとにかく「小三治さんに会いたい」と思って足を運んでいる。今を生きる小三治さんが同じように今を生きる私に語りかけてくれる。それが何よりも嬉しい。

カジヒデキ ミニスカート

本や映画は大好きだけど「人生を変えた一冊」も「人生を変えた一本」も特に思いつかない。 
だけど、「人生を変えた一枚」なら迷いなく答えられる。 

カジヒデキ『ミニスカート』 

カジくんが1997年に出したファーストアルバム。 
子どもの頃にキューピーマヨネーズのCMで偶然耳にした「ラ・ブーム」という曲に一瞬で心を奪われて、その曲が入っている『ミニスカート』というアルバムをMDに録音して持ち歩くようになった。 
それまで音楽を聴く習慣がなかったのだけど、これを機に、突然毎日音楽を聴く人になってしまった。 
私の場合「音楽を聴く」=「カジくんを聴く」なのだけど…。

カジくんの書く歌詞にはあんまり暗い話が出てこない。 
お茶を飲んだり散歩をしたり呑気な印象を与える歌詞が多い。
だけど「本当に呑気に生きている人にはこういう歌詞はかけないだろうな」っていうのも直感的に感じていた。 
「しんどいことや面倒なことを要領よく避けて、気楽な雰囲気を作り出している」というのとは全く違う感じがする。 
自分が厳しい状況にある時でもカジくんの音楽から気持ちが離れてしまわないのがその証拠だろう。 
厳しい状況をくぐりぬけてもなお失われない輝きのようなものがあって、そこに焦点を当てているのがカジくんの歌詞の魅力だと思う。 
カジくんの曲を初めて聴いた高校生の頃からずっと、私も自分の中のそういう部分を大事にしたいと思っていた。 
だから私は自分が厳しい状況にある時こそ、カジくんの曲を聴いていたい。 

あれから15年経った今でもカジくんを聴かない日はないっていうぐらいカジくんの曲が大好きだ。 
私のiPodにはカジくんの曲しか入っていないので、シャッフルしてもカジくんの曲しかかからない。 
密かにカジポッドと呼んでいる…。 

ラ・ブーム」はカジくんが必ずライブでやってくれるし、今でも大好きな曲。 


『BLUE HEART』というアルバムは、「カジヒデキ決定盤」ってカジくんも言っていたけれど、カジくんの魅力がギュッと詰まっている素晴らしいアルバムだった。初めてカジくんを聴いて大好きになった15年前の感覚がよみがえるようなアルバムで、一曲目を聴いた瞬間に大興奮してしまった。一曲目はアルバムタイトルにもなっている「BLUE HEART」だ。 


このアルバムを聴いたあとで過去のアルバムを聴き直すと、一つ一つのアルバムがより輝きを増すように感じられる。だからちょっとずつカジくんのアルバムを古いものから順番に聴き直している。 

『Towns and Streets 』を聴くと初めてライブに行った時の衝撃がよみがえる。 

『lov songs』(ローヴ・ソングス)は一番好きなアルバムで、その中に入っている「Protest song」が私の一番好きな曲。 

『TEENS FILM』はカジヒデキリディムサウンターという名義で作られたアルバムで、これをきっかけにして私はリディムサウンターを知った。 
「亜熱帯ガール」はイントロから楽しい気分になるから大好き。 

どのアルバムにも思い入れがあって、何度聴いても楽しくて仕方ない。 

「音楽といえばカジくん」と言っても過言ではないぐらいに偏っていたのだけど、最近ちょっとずつ音楽の幅が広がってきたのが嬉しい。 
といっても、カジくんを中心にした広がりかたなんだけど…。
これからもカジくんを中心に音楽の幅を少しずつ広げて、特に気に入ったものはより深く追求することにしようと思う。



KONCOS 2012年〜2013年

初めてレコードを買った。 
KONCOS『ピアノフォルテ』 

KONCOS(コンコス)というのは、リディムサウンターでドラムを担当していたタイチくんと、ギターを担当していたヒロシくんが、バンド解散後に結成したデュオ。 
タイチくんがピアノで、ヒロシくんがギターと歌。 
タイチくんの力強いピアノもヒロシくんの書く絵本のような情景が浮かぶ歌詞も大好きだ。 
すっごく可愛い歌詞なんだけど、可愛いだけじゃなくて、ぐんぐん夢が膨らんでいくような強さが感じられるから好き。 
そんな歌詞にピッタリのヒロシくんの声も素晴らしい。 

ピアノフォルテ』には、カジヒデキ「亜熱帯ガール」へのアンサーソングとして作られた「KO・NA・YU・KI BOY」という曲も入っている。 
「亜熱帯ガール」はカジくんが作曲して、カジヒデキリディムサウンターでレコーディングした曲。 
「KO・NA・YU・KI BOY」の「間違ったって It’s all right!」っていう歌詞がカジくんぽいなって、私は思う。 

KONCOSの二人は『ピアノフォルテ』で故郷、帯広のことを歌った。 
そして、カジくんがリリースした『SWEET SWEDISH WINTER』はカジくんにとって大切な場所、スウェーデンについて歌ったもの。 
このカジくんのアルバムにはKONCOSの二人が参加していて、こういうの、すごく素敵だなって思う。 

情景が広がるところが魅力の『ピアノフォルテ』の中でも、特に「ムスカリンリン」という曲の情景の広がり方が私は好き。
「スッとぬけると、アッとおどろく、濃いブルー」の部分がたまらなくいいと思う。 
すずらん ららんらん」「むすかり りりんりん」って歌詞もかわいい。 


このアルバムの中で私が一番好きなのは「シシリアンルージュにあこがれて」という曲。 

タイチくんのピアノが素晴らしいし、ライブでヒロシくんが手拍子をしながら歌ってくれるのも嬉しい。 
「トマトを食べよう」って歌詞の歌なんだけど、作詞したヒロシくんの嫌いな食べ物は、トマト…。 

KONCOSは2012年11月2日から2013年2月24日までの間、全国を回ってライブをしていた。 
北海道2カ所を含む全都道府県、合計48カ所! 
「旅するコンコス~みんなのまちとぼくらのおんがく~」と題してのツアーだ。 
私はフライヤーを冷蔵庫に貼って、毎日のように「今日はここにいるな」とか「次はここだな」とか確認していた。 
ツイッターやブログで旅の様子を味わえるのも楽しかった。 
今まで旅行に全然興味がなかったのだけど、タイチくんのブログを読んで、私も旅に出たくなった。 

旅するコンコスのツアーは神戸に住んでいる友だちと参加した。 
神戸と大阪の二カ所。 
私は大阪に住んでいるので、友だちのまちと私のまちだ。 

神戸(ボ・タンバリンカフェ)で参加したのが11月10日。5カ所目。 
ここでは、ツアーに向けての意気込みや『ピアノフォルテ』完成までの話を聴けたのがよかった。 
そして何より、レコード愛溢れるタイチくんの話に感動しっぱなしだった。 
「研究と創造を同時にしない」というルールを自分に課したという話も印象に残っている。 

私はチャーべくんがカジくんとKONCOSを引き合わせてくれたおかげでKONCOSを知って、KONCOSが『ピアノフォルテ』をCD付きレコードという形でリリースしてくれたおかげで、音楽をレコードで聴くようになった。 
実は生まれてから今まで一度もレコードに触ったことがなかったのだ。 

友だちに教えてもらってレコードプレーヤーを買って、KONCOSの『ピアノフォルテ』をレコードで聴いた。 
初めて触るレコードに恐る恐る針を置く。 
CDの音とレコードの音は全然違った。 
CD付きレコードという形で出してくれたので、聴き比べることができて面白い。 
CDとレコードでは、レコーディングの仕方も変えたそうだ。 
レコードで音楽を聴くのが楽しくて、今まで以上に音楽を聴くのが好きになった。 
レコード屋さんにも時々行って、もっともっと色んな曲を聴いてみたい。 

神戸のライブのあと、KONCOSの二人が持ち歩いている等身大パネルのような顔はめ看板を使って写真撮影をした。 
タイチくんにも一緒に写真を撮ってもらった。 
写真のお礼を言ったあと、タイチくんがあまりにも気さくに話をしてくれるので、思わず「『ピアノフォルテ』で初めてレコードに触りました。よかったです」と言ってしまった。 
するとタイチくんが「お~!いいんですよ、そういうのがいいんですよ!」と言って、いきなり握手をしてくれた。 
ちょっとビックリした。でも、すごく嬉しかった。 
「この人、本当にレコードが好きなんだな」って思って、感動した。 
何かを本気で大事にしている人はかっこいい。 
タイチくんのことがますます好きになった。 

KONCOSはツアー中に番外編として心斎橋のFLAKE RECORDSでインストアライブをしてくれた。 
私も参加したのだけど、この日もタイチくんのレコード愛あふれる話が楽しかったし、好きなレコードをかけてくれたりしてレコード屋さんならではのライブになった。 
私はこの日ノルウェーのミュージシャンソンドレ・ラルケの名前を覚えた。 
「目黒川と阿武隈川札内川との関係性」という曲で鉄道の音をレコードでかけて演奏に重ねてくれたのがかっこよかった。
ヒロシくんが「虹色レインボー」の歌詞について説明してくれたのも嬉しかった。 

そこから三ヶ月経過して、2月22日は大阪でのライブ。 
心斎橋のBar MUSZE。 
ピアノがある会場だったのが嬉しい。 
この日はチャーベくんが来てくれるという情報が直前に入っていたので、それも楽しみだった。 
ニット帽を何度も落としながら激しくピアノを弾くタイチくんがかっこいい。 
ヒロシくんの声、すごくいいなって改めて思った。 
それに、チャーベくんのパーカッション、最高! 

MCではタイチくんが息継ぎなしに一気にここまでの旅について語ってくれた。 
長いようで短かったなぁと思って、私まで感無量。 
もうすぐ旅が終わってしまうことがすごく残念に思えた。 
タイチくんが一気に思いを語ったあとで、ヒロシくんに「ヒロシは?」って振ったら、ヒロシくんが一言「同じです」とだけ言うから大笑いしてしまった。 
あまりにもアッサリしている…。 
この二人の組み合わせ、すごくいいなって思った。 

「ならせ!タンバリン」のタイチくんのダンスは見ているだけでも度肝を抜かれていたのに、この日はみんなで踊ることになってしまった。 
まさか自分が一緒に踊ることになるとは思っていなかったからビックリしたけど、すごく楽しかった。 
『今日からスタート』をみんなで歌ったのも楽しかったし、歌詞カードをもらえたのも嬉しかった。 
歌詞カードにタイチくん、ヒロシくん、チャーベくんのサインを入れてもらえたのがすっごく嬉しい。額に入れて飾った。

大阪のあとは名古屋と東京。 
そこで旅するコンコスも終わってしまう。 
東京でのファイナルはすごく感動的だったみたいで、私も参加したかったなぁって心底思った。 
超満員の会場で、カジくんも駆けつけたそうだ。 

大阪でのライブは46回目。 
演奏もトークも神戸で見た5回目のライブよりずっとよくなっているように思えて、私もこういう武者修行的なことをやりたくなってしまった。 
数をこなすことによる強さはもちろんあるだろうけど、単純に回数を重ねただけではない魅力が感じられて、そこを見られたのが嬉しかった。 

ライブをするためだけにその土地を訪れるのとは違って、意識的に「旅」をすることで初めて身につけられるものがあるような気がした。 
その土地の物を食べ、人と交流し、その場所でしかできない経験を貪欲に真剣に積み重ねて行った結果、初めて手に入れられるものがあって、それがKONCOSのライブをどんどん魅力的なものにしていたんじゃないかなって思う。 
旅するコンコスに参加できて本当によかった。 

タイチくんの旅するコンコス日記も回を重ねるごとに素晴らしくなっていて、いつも更新されるのが楽しみだった。 
自分の訪れたまちの魅力をこんな風に伝えられるのは、タイチくん自身が魅力的な人だからだと思う。 
タイチくんの文章、大好きだ。 
私もそんな文章が書ける人間になりたい。

カジヒデキ SWEET SWEDISH WINTER

カジくんの新しいアルバムが発売された。 
スウェーデンの冬」をテーマにしたコンセプトアルバム。 
『SWEET SWEDISH WINTER』 

私はカジくんを好きになるまでスウェーデンには全く関心がなかったのだけど、Mr.スウェーデンを名乗るカジくんにつられて、ちょっとずつ北欧の文化に興味が出てきた。 
北欧特集の『TRANSIT』も買ったことだし、ちょっとずつ勉強して詳しくなっていこうかなって思う。 
いつかスウェーデンに行ってみたい。 

スウェーデンといえばセムラ! 
カジくんから聞くまでセムラというお菓子の存在も知らなかったのだけど、カジくんも大好きだというこのスウェーデン伝統のお菓子を神戸にあるマルカというお店で食べてみた。

私がセムラを食べにいったのは2月12日。 
たまたま今年のセムラの日だった!(毎年「セムラの日」というのが決まっているそう) 
セムラは期間限定のお菓子でイースターまでの40日間だけ食べることができるらしい。 
カルダモン入りのパンにアーモンドペーストと生クリームが挟まれている。 
マルカのセムラはカルダモンが効いていて、パンをくりぬいた中にたっぷり入っているアーモンドペーストにシャリシャリした食感があって、すごくおいしかった。 
カルダモンは初めて口にしたのだけれど、ショウガに通じるものを感じて、「なるほど、冬のお菓子だな!」って思った。 

『SWEET SWEDISH WINTER』には「セムラ・ソング」というセムラを歌った曲が入っている。すっごく愉快な楽しい曲!

セムラは数年前に出たアルバム『STRAWBERRIES AND CREAM』 にも登場していて、「スカ・ヴィ・フィーカ?」という曲に「2月はセムラでノックアウト」って歌詞が出てくる。 
私はこの曲の「ちょっとお茶して気分を変えよう」って部分がすごく好き。 
ちょっとお茶したぐらいで気分が変わらない日もあるけれど、それでも「ちょっとお茶して気分を変えよう」と思える自分でいられればいいなって思う。 

『SWEET SWEDISH WINTER』に入っている曲で一番好きなのは「気高きウインターズ・スカイ」。 
ヨーテボリを舞台にした曲。 
カジくんのスウェーデンでの思い出の中に日常が窺えて、それが自分の日常とも通じるところがあるように感じられるのが何だか嬉しい。 
朝靄がたちこめる中、凍った路面を滑るように歩いたり、トラムに飛び乗ったりする光景は遠いまちスウェーデンのものなんだけど、大好きな場所に行くとちょっと元気が出たりするのは私も同じだ。 
もうひとふんばりするための何かを日常の中に持っておくことは私にとって大事なことなので、カジくんがそういう瞬間を歌にしてくれているのがすごく嬉しかった。 
特典のZINEに「スタジオ裏の丘から海を眺めて、ヴァイキング時代に思いを馳せて勇気を出した」っていう内容の話が書かれていて、その一文にも感動してしまった。 
この曲の「ほどけそうな靴ひもを もう一度 締め直そう!」って歌詞もすごく好きだし、私はとにかくカジくんが「大丈夫」って歌うのが好きなんだなって、この曲を聴いて改めて思った。 

アルバムタイトルにもなっている曲『SWEET SWEDISH WINTER』はFreewheelの曲をKONCOSとカジくんが一緒にカヴァーしたもの。 
他にもKONCOSが関わっている曲がいくつかあって、いい感じでKONCOSっぽくなっているのが嬉しかった。 
KONCOSのタイチくんとヒロシくんは帯広出身で、『ピアノフォルテ』という帯広をコンセプトにしたアルバムを昨年リリースしたところ。 
そんな二人がカジくんのスウェーデンをコンセプトにしたアルバムに参加するというのが何だか素敵だなって思った。 
元の曲を聴いてみたのだけどすごくかわいらしい曲だった。こういうの、好き! 

ZINEには「僕の好きなスウェディッシュ・ポップ10枚」というページもあったので、カジくんオススメの曲をどんどん聴いてみようと思う。 

「このアルバムの事をもっと深く理解して頂く為に、ファンジンを作りました」ってZINEに書いてあったけど、こういうのを作ってくれるのがすごく嬉しい。 
カジくんの「自分の好きなものを広めたい」っていう思いが存分に詰まっている充実の内容で、それを冊子の形で手にすることができて、すっごく幸せだなって思った。 

このアルバムを聴いていると、スウェーデンの冬がすごく魅力的に思えてくる。 
日照時間は短いけれど、寒くて暗いだけじゃなくて、生活を楽しむ工夫に溢れた素晴らしい季節なのかもしれない。 
寒いのは苦手だけど、冬のスウェーデンにいつか行ってみよう! 

【映画】いつか読書する日

いつか読書する日』 2005年 日本 
監督:緒方明 脚本:青木研次 

大場美奈子は15歳の時に「ずっとこの町で生きていこう」と決めて、その思いを作文に書いた。50歳になった彼女は、作文の内容通り、生まれ育った町で今も生活している。早朝に牛乳配達をして、新聞を読みながら朝食をとり、昼はスーパーでレジを打つ。時々、おばさん(母の友人)の家で一緒にご飯を食べてビールを飲む。一人で過ごす夜は本を読みながら眠って、眠れない夜にはラジオを聴く。 

田中裕子が演じる大場美奈子の生活は、私にとって理想の生活。「判で押したような、はたから見て何が楽しいのかわからない生活」と作品の中で言われてしまうのだけど、天井までの本棚に本がぎっしり詰まった部屋でひっそり暮らすのは楽しそう。牛乳瓶を入れた鞄を提げて石段だらけの坂の町を走るのも気持ち良さそうだった。牛乳を配りながら見晴らしのいい場所へグングンのぼっていって、町や町の人たちの様子を肌で感じることのできるこの仕事を彼女が「生きがい」と表現するのもよくわかる。 

長崎で撮影されたそうなのだけど、方言は一切出て来ないし、この町が長崎であることを示す描写もない。そのせいで魅力的な風景をもつこの町が架空の町のように思われて、現実なのか非現実なのかよくわからない瞬間が生まれる。「児童虐待」「認知症」「自宅療養」「不倫」といった現実的な問題を扱いながら、「カレー小僧」という空想的な存在が出てきたりして、現実と非現実とが絶妙なバランスで織り交ぜられている感じがした。坂が多くて先が見通せない町はファンタジーにぴったりだし、住みやすいとは言いづらい地形だからこそ人間の営みの現実的な部分が生々しく伝わってくるのかもしれない。 

淡々と何の不満もなく生きているように見える大場美奈子だけど、彼女には隠し事がある。彼女は高校生の頃に付き合っていた高梨槐多(かいた)という男を今でも思い続けている。事情があって二人は疎遠になり、槐多は別の人と結婚してしまった。槐多を演じるのは岸部一徳。彼もずっと同じ町で暮らしていて、彼の家にも彼女は毎日牛乳を配達する。二人とも積極的に言葉を交わすことはないのだけど、何度となくすれ違い、いつもお互いの存在を感じながら、数十年に渡って静かに相手を思い続けている。田中裕子と岸部一徳はそんな役を演じるのにぴったりの二人だった。 

50歳の大場美奈子が十代の少女のように見える瞬間が何度もあった。自分の決めた通りの人生を着実に間違いなく歩んできた彼女の中に、少女のころのまま止まってしまっている部分が窺えると、そのたびに何ともいえない気分になるのだけど、そんな瞬間の彼女が魅力的だった。おばさんのうちでビールを飲みながらお喋りをするシーンで、ソファーの上に膝でよじのぼる様子が特に可愛かった。私の目に「少女っぽさ」として映ったものは、「変えようとしても変えられないものを密かに抱え続ける強さ」や「歳を重ねても不慣れなままでいられる強さ」なんじゃないかなって思った。この感じを出せる田中裕子は本当にすごいと思う。 

彼女が夜中にダイニングテーブルでラジオへの葉書を書くシーンも好きだった。彼女が書くのは自分の恋の話。自分の変わらぬ思いを知って欲しいと思う時もあれば、知られてはいけないと思う時もある。そんな葛藤を繰り返してきた30年以上の年月がこのシーンから窺えて切なかった。彼女がリクエストする曲はPaul Williamsの “Rainy Days and Mondays” 

この映画にピッタリの歌詞で、次の部分を聴いて、大好きなシーンを思い出した。 

“Nice to know somebody loves me. Funny but it seems that it’s the only thing to do. Run and find the one who loves me.” 
認知症を患ってふらふらと出歩いてしまったおばさんの旦那さんをおばさんが必死で探し回る。おばさんの声を耳にして事態に気づいた大場美奈子もおばさんと手分けして町中を走り回る。高梨槐多もおじさん探しに協力してくれた。おじさんが見つかったことを知らせるために大場美奈子が高梨槐多を探しにいって、橋の向こうにいる彼を見つけて、大声で呼ぶシーン。「高梨さーん!!」と呼ばれて振り返らない彼に「槐多―!」って呼びかけるシーンがすごくいいのだけど、“Rainy Days and Mondays”の上にあげた部分の歌詞を聴いて、このシーンを思い出した。音楽と映画が上手くつながるのって、いいな。


未婚のまま50歳になる大場美奈子も、シングルマザーのレジ仲間も、奥さんが病気で亡くなってしまう高梨槐多も、みんな一人で暮らすことになる可能性を持っている。失恋したレジ仲間から「ひとりで寂しくない?」と聞かれた大場美奈子が「大丈夫。クタクタになればいいのよ」って答えるシーンが好き。彼女を心配したおばさんが「これからどうするの?」と聞いた時に「本でも読むわ」って答える彼女も最高だった。

コヤブソニック二日目カジくんライブ 2012年9月30日

コヤブソニック二日目、カジくんライブ! 2012年9月30日(日) 


初めての野外フェス参加と思っていたのだけど、台風のため会場が体育館に変更された。バレーボールの試合を観客席から見下ろすような形でお笑いや音楽のライブを見るのはすごく不思議な感じだったけど、どの芸人さんもミュージシャンも急な会場の変更をものともせずにお客さんを楽しませていた。さすがプロ。笑い飯麒麟フットボールアワーが見られたのが嬉しかった。RGが面白くて一瞬で好きになってしまった。 

夕方になってやっとカジくんが登場!メンバーはブルーハートツアーと同じ!夏のツアーのあと「このメンバーでのライブをもう一度見たい」って友だちと言い合っていたので、コヤブソニックのメンバーが発表された時はすごく嬉しかった。KONCOSのタイチくん、ヒロシくんに、HARCOさん、ダイサクさん。豪華メンバーだ。カジくんがコヤブソニックの前にツイッターで「夏のツアーの感動アゲイン!」ってツイートしているのを見て、期待がいっそう高まった。待ちに待ったこの日、メンバー全員がボーダーで登場して、それを見るだけで一気にテンションが上がった。カジくんは最近よくかぶっている赤い帽子! 

一曲目は『ビーチボーイのジャームッシュ』上から見下ろす形なのでいつものライブよりカジくんが遠いのだけど、カジくんの動きがよく見えるのが嬉しい。“hello”のところでカジくんが蹴り上げるような仕草をするのがかっこいい。間奏のところでダンスを見せてくれたり、いつも以上に熱い感じが伝わってきて、一曲目から最高に盛り上がった。さすがカジくん!!これ以上ないぐらい弾けていてめちゃくちゃかっこよかった。 

二曲目は『甘い恋人』いつも通りみんなで「甘い、甘い」って歌って、最後にはDMCの根岸くんのポーズも決めてくれた。 

『君とサマーと太陽がいっぱい』で、体育館に敷かれたビニールシートの上を客席に向かってバーッと走って行くカジくんが帽子を落っことしちゃったのが忘れられない。歌って、演奏して、踊って、走って。前からカジくんの体力はスゴイと思っていたけれど、それを知っていてもこの日のカジくんの動きには度肝を抜かれてしまった。地面に置いてあるスピーカーを軽々と飛び越えたり、自分のマイクのところまで戻れなくてHARCOさんのマイクで「ONE LOVE!」って歌ったり、体育館を走り回るカジくんが最高にかっこよかった。 

『亜熱帯ガール』で足を開いたり閉じたりしながらジャンプするカジくんがかわいくて、見ていてすごく楽しかった。カジくんも他のメンバーもすごく楽しそうに演奏していて、自分が大好きでいつも聴いている曲がこんな風に演奏されるのを目の当たりにできるのはすごく幸せなことだなって改めて思った。CDで聴いていた大好きな曲をライブで聴けるのはすごく嬉しくて、聴くたびにどんどん好きになってしまう。 

爽やかでかわいいところが魅力のカジくんだけど、それだけじゃなくて熱くて激しいところも見せてくれる。カジくんの作るフットボールソングは最高にかっこいい。いつもライブで盛り上がる『TOO MUCH TOO YOUNG』ライブハウスの照明がなくても、いつも通りみんなでゾンビポーズを決めて、激しく動き回るカジくんに熱狂した。 

最後はやっぱり『ラ・ブーム』みんなでドアを叩きながらカジくんと一緒に歌うのが楽しい。マイクスタンドを倒しちゃうカジくんに大興奮。歌詞に合わせて客席に向けてほわっほわっと魔法をかける仕草をしてくれたのが嬉しかった。 

ライブが終わったあともすごかった。カジくんと芸人さんが一緒にネタをやってくれたのだ。 カジくんのネタ披露は完璧。完全に振り切れてて見てて気持ちよかった。誰よりも熱いライブをみせてくれたうえにこんなことまでできちゃうなんてスゴイ! 

友だちが「『見よ!我らがカジヒデキを!』って思って鼻が高かった」って言ってたけど、私も同じ気持ち。カジくん、スゴイ!どのライブも思い出深いけど、この日は間違いなく忘れられない一日になった。ほんと、コヤブソニックが無事に開催されてよかった.。 

カジくんはイギリスのコメディが好きで、普段から「音楽とコメディは相性がいいんです」って言っているけど、音楽とお笑いのお祭りコヤブソニックは想像以上に楽しいイベントだった。