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ツイッター @hyokofuji ミサ

【本】星々の悲しみ

『星々の悲しみ』宮本輝(文春文庫) 

予備校に通う浪人生でありながら、なかなか予備校へは足が向かず、中之島の図書館で本を読んで過ごす主人公。 
本に夢中になっているかと思えば、女の子に声を掛けたり、わざわざ声を掛けたわりにはその女の子にたいして執着していなかったり…と、とにかく移り気。 

そんな時、予備校で見かけた二人の男と友人関係になる。 
仲良くなった三人でちょっとした事件を起こしたり、主人公の妹と男友達との恋愛とも呼べないような恋愛に主人公が動揺したり、友だちとの突然の別れを経験することになってしまったり…。 

これといった目的もなく無為に過ごす毎日の中で、自分の将来に対する漠然とした不安や焦りは感じていて、それでもやっぱり目の前の出来事が一番大事で、それに熱情を傾けてしまう。
損得計算とは無縁の贅沢な時間を過ごす主人公がちょっと羨ましい。 

「どれだけ無駄なことをしてきたかでその後の人生が決まる」というような意見を聞くと、「何だか胡散臭いなぁ」と思っていたのだけど、最近になってようやく、「無駄と思えることが意外に自分の役に立ってくれるもんだ」ということがわかってきた。 

中之島の図書館は馴染みのある場所なので久しぶりに行きたくなってしまった。 
古臭い建物の狭苦しい自習スペースなのだけど、高校生の頃時々行っていた。 

表題作のほか短編が6つ入っているのだけど、知った地名の出てくる物が多くて、自分の経験でもないのに何だか懐かしい気持ちになってしまう。 

冴えない毎日をひっそり生きる男たちが主人公になっているところがいい。 
火をながめるのが好きな男や、蝶の採集に熱中する男などちょっと偏執的で怪しい登場人物が出てくるのもよかった。 

夢と現実の境が曖昧なように、自分の記憶や感覚も不確かなもので、そういう不確かなものの上に立っている危うい感じが作品全体に漂っていた。 
もしかすると地名のせいではなく、淡くて幻想的な感じがするのが、懐かしいという印象を与える原因なのかもしれない。