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【本】妖精が舞い下りる夜

『妖精が舞い下りる夜』 小川洋子 (角川書店) 


小川洋子の小説は何冊も読んでいるし、エッセイも読んだことがあるのだけど、こんなに古いものを読むと何だか不思議な気がする。 
最近の文章とトーンが全然変わらないのだけどこれを書いているころの小川さんは私と同じ歳ぐらいなのだ。 

一つ目の「私の文章修業」から始まって、文章を書くことに小川さんがどんな風に向き合ってきたかがわかる内容になっているのが嬉しい。 
作家になるまでの話が特に小川さんのひたむきさを表わしていて、作家になるのってすっごく根性のいることなんだなって改めて思った。 

デビューしたからといってスラスラ書けるようになるわけではなく、小川さんは自分のことを遅筆だと言う。 
平均三枚、最高七枚というペースが遅いのか速いのか私にはわからないけれど、小川さんは遅筆の理由を言葉を選ぶのに手間取るからだと言っていた。 
動作を描写する時にも、選ぶ言葉によって内面の奥深い一点が表現されたりするらしい。 
小説っていうのはそんな風に丁寧に吟味された言葉で書かれるものなんだな。 

ワープロの操作ミスで原稿20枚分を消してしまったといううっかりエピソードや、ワープロに興味を示して邪魔をしにくる息子さんと戦いながら執筆をした話を聞いて当時の小川さんの日常を想像したり、憧れのミュージシャン佐野元春と一緒に仕事ができた話を聞いて「よかったね!」って思ったり。 
小説を書き続けるって本当に大変なことなんだなってしみじみ思いながらも、だからこそ得られる喜びは何ものにも換えがたいんだろうなって思った。 
自分が書かなかったことや書けなかったことを掬い上げてくれる書評を読んで嬉しくなったり、自分の書いたものを読んで他の作家さんや音楽を連想したと教えてくれる人がいたり、自分の書いたものを通して思いがけない反応が返ってくるところも素敵だ。 

「全作品について」という部分で小川さんの作品六つが小川さんによって解説されている。 
『冷めない紅茶』はソウル・オリンピックの飛び込み競技をテレビで見ている時に突然書きたくなったとか。 
作品ができあがるまでの背景にも触れてくれているので興味深くて、これを読んでからもう一度小説を読み返してみたくなった。