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【本】恋愛の格差

『恋愛の格差』村上龍幻冬舎文庫) 

村上龍のエッセイを読んでると、「そこまではっきり言っていいのか??敵が増えるぞ。そんなこと聞きたくない人は、いっぱいいるぞ。」とよく思うのだが、ヒヤヒヤしながらも楽しんで読んでしまう。 

彼は特に一部の人間に対して手厳しい。 
会社が自分を守ってくれるものだと信じ、入社しさえすれば安心だと思っていて、女は自分たち男に守ってもらうものだと考えている男性とか、そういう価値観を共有している女性に対して批判的だ。 
個人的にそういうのが嫌いだというのもあるんだろうけど「これから先、そんなの通用しないよ」という気持ちが強いようだ。 

彼の価値観は彼の母が教師として忙しく働いていたこととも関係しているみたいで、「たとえ親でも相手の自由と時間を束縛してはいけないのだと実感しつつ育った」と彼は言う。 
これを読んだ瞬間、「息子をまともな男に育てるには母親が働いている方がいいのかなぁ」と思ってしまった。 
でもすぐに、「自分は保育園に預けられっぱなしでかわいそうな子ども時代をすごした」と主張する、他人が自分のために動いてくれるのが当たり前だと思っている男の顔が浮かび、「一概にはいえないよな…」と思い直す。 

恋愛の話というよりも「愛情と依存は混同されやすく、お互いに自立したうえで関係を築くというのは、なかなか難しい」という話のようだった。 
自立した人間であることも、自立した人間を探すことも難しい。 

というのも、村上さんのいう自立というのが「これができてたら合格」と言えるようなわかりやすいものではないからだ。 
例えば、経済力があればいいというわけでもないし、一人暮らししていればいいというわけでもない。 

「この集団やこのカテゴリーに属していれば大丈夫だろう」という甘えがなく、仕事や人間関係を通じて自分がいったいどういう人間なのかを知っていて、先のことまで見据えて何かあっても大丈夫な自分でいられるような準備をしている人のことらしい。 

専業主婦でも、仮に離婚した時一人でやっていけるかどうか考えたり、そのための力を身につけようとしていれば自立していると言えるようだし、会社員でも、自分の会社が倒産したり自分が解雇された時のことを全く考えていない人のことは自立しているとは言えないらしい。 
どうやら、自分が今置かれている状況に甘えず、自分の力を常にシビアに量っている人のことを自立しているというようだ。
なかなか厳しい…。 

女性向けに書かれてあるエッセイなので、【自分の彼が自立してるかどうかの判断材料】なんてのが挙げられている。 
「会社など勤め先以外に人間関係を持っているかどうか」が有効な判断材料になるというのだけど、確かに所属に頼らない人間関係を作れる人は他人と接する時に甘えが少ないんだろうなぁと思う。 

集団の一員としての自分の役割さえ果たしていればはじかれることのない人間関係と、個人として他人と向き合わねばならない人間関係とが質的に違うのはよくわかる。 

仮に、夫がよくうちにお客さんを連れてくる人間だったとしても、それが今の職場や卒業大学の後輩ばっかりだったとしたら、社交的な人だとは単純に思えないだろう。 
「上下関係がはっきりする状況でしか人と関係が築けないんじゃないだろうか」と疑ってしまう。 

村上龍は「一般企業のおじさんたちと夕食をともにした時、みんなの話があまりに面白くなくて大変だった」と書いている。
一般企業のおじさんたちは、職場の外で外部の人も交えて食事をする時にまで、職場での仲間意識を拡大してしまった。 
そのため、それぞれの人がどういう人間で、誰が何に興味を持っているのか見えてこず、誰と何の話をしたんだかさっぱりわからなくなってしまったそうだ。 
そのくせ、会社内での序列だけは無駄に印象に残ってしまったという。 

一般企業のおじさんに限ったことではなく、集団で行動する時には自分がどういう人間なのかをさらさない方が楽だし、それをよしとする風潮も確かにあるなぁと感じた。 

でも、そういうもたれあいの関係に慣れきってしまうとつまらない人になっちゃいそうだなぁというのもよくわかる。 

「平穏な人生というのは、実はつまらない人生だったりする」と村上龍は言うのだけど、彼が失恋した男友達を見ていて「苦悩しているはずなのに、妙に充実して見えることがある」と言うのが面白かった。 

彼は失恋した友達に三つのアドバイスをするらしい。 
一、最初から「傷が癒えるのに三年はかかる」と覚悟を決める。 

二、二日酔いするほど飲まない。 
二日酔いの自己嫌悪と失恋の喪失感が重なると最悪だからだそう。 

三、失恋と人格的な自信を結びつけない。 
憂鬱な記憶は他の憂鬱な記憶を呼び寄せてしまうのでこれは簡単じゃない。 

三つとも失恋に限らず、落ち込んでる時には常に気をつけた方がよさそうな気がする。