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【本】青春漂流

『青春漂流』 立花隆 (講談社文庫) 

立花隆が青春真っ只中の11人の青年(22~36歳)にインタビューした内容をまとめたもの。 
1985年に刊行された単行本が文庫化されたものだから、ずいぶん古い話。 

ここで言うところの【青春】は、恋愛や友達関係で悩んだり、部活に一生懸命になったりする中高生時代を指す言葉とはちょっと違う。 
今の自分の位置に安住することなく技術を習得したり学んだり自分の興味や関心に従って情熱的に進んで行く時期のこと。その先に何があるのかはまだ本人にもわかっていない。 

立花隆は、あとがきで空海について語る。 
空海は、古代のエリート教育機関「大学」から落ちこぼれ、私度僧になってしまう。 
これ以後三十一歳で遣唐使船に乗るまで、どこで何をしていたのか全くわからない。 
修行に修行を重ねたと推定されるだけのこの時期は「謎の空白時代」といわれる。 
遣唐使船に乗り込んだ時には無名の留学僧だった空海だが、唐に入るやいなや高い評価を得、たった一年余の間に密教の全てを伝えられた当代随一の高僧になってしまう。 
これは、十年余に及ぶ「謎の空白時代」に蓄えられたものが留学の際に認められた結果なんだろうけど、一体どこでどんな修行をしていたのかすごーく気になる。 

立花隆のいう「青春」は空海の「謎の空白時代」にあたるものだ。 
空海に関しては謎のままの空白時代が、この本で紹介される11人に関しては真っ只中にいる本人の言葉で、ある程度知ることができる。 

家具職人 
ナイフ職人 
猿まわし調教師 
精肉職人 
動物カメラマン 
自転車のフレームビルダー 
鷹匠 
ソムリエ 
コック 
染織家 
レコーディングミキサー 

馴染みのない職業が次々に登場する。 
てんでバラバラの職業に就く11人だけど、どの人も情熱的で熱中した時ののめりこみ方がすごい。 
我がままというか極端というか、好きなことのためならどんな苦労も厭わないけど、興味のないことに関しては驚くほど我慢が利かない。 
真剣とか真摯っていう意味ではすっごく真面目で努力家なんだけど、優等生的な真面目さは全く持ち合わせていない。 
読んでいて、ちょっと前に読んだ本に出てきた野口健を思い出してしまった。 

11人の青年達が自分を作り上げていくプロセスを見ていると、その結果がどうなろうとこの人たちは幸せなんだろうなぁと感じる。 
先のわからない状況に平気で飛び込む姿は、よくよく話を聞いてみないとただの無謀な選択に見えてしまう。 
計算に基づいて動くというよりは嗅覚を頼りにしているような11人なんだけど、自分を試しながら自分の能力を正確に把握し自分を着実に理想に近づけていく姿は、大胆でありながら冷静で厳格だ。 

自分以外の何かを味方につけたり、理屈をこねて今の自分のあり方を正当化することのできる器用な人間と違って、恐ろしいほど不器用に生身の自分をさらしてしまう。 
そういう生き方しかできない人間は危なっかしくて見ていてヒヤヒヤしちゃうんだけど、このタイプの人間がつけていく自信は揺るぎない。(自信の根拠を自分以外に求めないから。) 

だから成功の可能性が低いと感じられる挑戦を前にしても、足がすくんじゃわないんだろうなぁ。