【本】ララピポ
『ララピポ』奥田英朗(幻冬舎文庫)
容姿、学歴、職業、名声、自由に使えるお金の額…そういったもので自分と他人を比べて劣等感を持ってしまう人たちが主人公の物語。
どの人も正攻法で自信をつけるということをしないし、他人を見下すような態度をとりがちなのだけど、それでも憎めない魅力がある。
状況が切迫しているわりに悲壮感がなくしぶとく生きている主人公たちを見ていると、妙に元気が出てくるから不思議だ。
三十二歳のフリーライターの男は、有名私大卒を鼻にかける嫌なやつなのだが、どうしても憎めない。
人間関係でつまずいて引きこもりに近い生活を続けながら、出版社からの電話には仕事が忙しい素振りで応答してしまう。
ホントは唯一もらえているこの仕事が切られたらどうしようとビクビクしているのに…。
昼間の図書館で知り合った女を「ブスでデブで高卒」とバカにしながらのこのこ部屋まで着いて行く。
自分には不釣合いな相手だと思っているようなのだが、そう思っているのは相手も同じ。
その女は二十八歳のテープリライター。
「若くてハンサムな男より、ランクの低い男の方が精神的に楽でいられる」と言いながら、図書館で風采がさえない醜男に声をかけ自分の部屋へ連れ込む。
彼女のベッドのそばには隠しカメラがセットされている。
それで撮影した映像を裏DVDとしてアダルトショップに売るのだ。
郵便配達員の男は職場で見下されている分、彼女と二人の時は威張り散らす。
八つ当たりの暴言に彼女は絶句するが、「DVDのことを考えればこれもおいしいか…」と思い直す。
実際、負け犬丸出しのこの男の言動は、裏DVD好きにはたまらないらしく、彼女が撮影するDVDの値段は跳ね上がる。
彼女が書き起こしている小説をテープレコーダーに吹きこんでいるのが、五十二歳の官能作家。
年収二千万をキープしているのだが、世間的に尊敬されないのが不満。
「官能小説は正しく評価されていない」と言っているこの男自身が、純文学より推理小説、推理小説より官能小説を下に見ているところが複雑だ。
お互いに尊敬し合えない編集者と作家が作家の家で打ち合わせをしている時に、作家の奥さんの声が響き渡る。
友だちとお喋りしているようだ。
「ううん。作家っていってもポルノよ、ポルノ」
「本はたくさん出してても、三流出版社だもん」
夫の職業が何であれブランドものを買いあされればそれでいいと開き直ってしまった奥さんとは対照的に、この作家は五十二歳にして「最後のチャンス」と言いながら出版社に自分の純文学作品を持ち込む。
「金はあっても満たされない。職業を聞かれるのがあまり好きではない」という、作家のつぶやきが悲しい。
他にも、二十三歳の風俗・AV業界のスカウトマン、AVに出演する四十三歳の主婦、二十六歳のカラオケボックス店員などが登場するのだが、みんな傷ついても挫折しても折れてしまわない人たちで、妙に図々しくてふてぶてしいところがある。
アダルトショップからの帰り、DVDを持ち込んだ女性が「みんな、幸せなのだろうか。考えるだけ無駄か。泣いても、笑っても、どの道人生は続いていくのだ。明日も、あさっても」と一人考えながら歩くところがいい。
誰かと幸せ比べをしても答えなんて出ないしね。