【本】恋愛嫌い
『恋愛嫌い』 平安寿子 (集英社)
一緒にランチを食べる仲の独身女性三人。
勤め先が違うから、お互いの職場の人間の悪口を気楽に言い合えてストレス発散にもなっている。
恋愛体質とは言いがたいこの三人が、結婚や恋愛について語るのが面白い。
それぞれに悩みがありながらも、元気に働いている、魅力的な女性たちだ。
スナック菓子メーカー販売促進部のベテランOL鈴枝は35歳で独身。
この歳まで独身でいると、【仕事に生きる女】というレッテルを貼られがちだが、彼女は昇進には一切興味がない。
「食っていくために働いてるだけですよ」というのが彼女のスタンスだ。
仕事はよくできるし、上司からも評価されているんだけど欲がない。
それを上司にはマイナス思考だと言われ…。
彼女は前向きであることが評価される風潮に反発を覚えていて、「コップに半分の水」というたとえ話も大嫌いだ。
そんな鈴枝が前向き嫌いになった原因が、仕事中に突然現れた。
八年前に鈴枝が付き合っていた男と突然結婚した女だ。
その女とのやり取りを見ていると、鈴枝が前向き嫌いになるのもよくわかる。
前向きなのはいいことだが、前向きな自分をみせびらかすための前向きは、見苦しい。
鈴枝は美人だしさっぱりした性質で魅力的な女性なのだが、恋愛はどうも上手くいかない。
【自称サバサバした女】は、けっこう上手くやっているのに、本当にサバサバした女はどうしてもモテないもんだなぁと改めて思う。
コンタクトレンズ販売店勤務の喜世美(29歳)は、感情に溺れない性分がコンプレックスで「冷たい」と言われて傷ついたことは数知れず…。
好感度抜群の眼科医に言い寄られ上手くいくかもしれないというチャンスをみすみす逃してしまう。
あきらめ上手な彼女をドライだとかクールだとか言う人も多いけど、「諦めたくない」なんて思わなくてもしっくりくるような誰かが現れるんじゃないかと思っているあたりがすごく可愛らしい。 乙女やね!
喜世美が結婚に至る顚末は意外で驚かされるんだけど、彼女の感覚は理解できるような気がする。
恋のかけひきなんて全くせずに相手ともしっくりきたみたいでよかった。
販売データ処理会社に勤める26歳の翔子は、お客さんと接するのもパソコン経由という仕事がら、Tシャツにワークパンツという姿で出勤している。
化粧気のない少女のような外見に、おばさんみたいな雑な口のきき方で、年齢不詳の「ヘンな女」だ。
ネコを飼ってて、一人暮らしで、ブログが生きがい。
オシャレにもお金にもあんまり興味がない翔子に、プチ成金男が接近する。
彼は専門学校時代の同級生。
起業して成功したらしいのだが、お金を中心にした価値観に嫌気がさして、そういうものから自由であるように見えた翔子に惹かれてしまう。
だけど、もともと自分に自信がなくお金以外にアピールポイントがないと思ってしまっている彼は、翔子相手にも札束をちらつかせる真似をする。
「プリティウーマン」のリチャード・ギアを真似たがる男の支配欲は、DV男のそれとたいして変わらないので、自分の力を見せびらかそうとする男には近づかない方がいいと私は思うのだが、昔の友だちだということもあって、翔子は何度か一緒にご飯を食べる。
無縁だったからお金にもブランド物にも興味がなかっただけで、ご飯をおごられることにも慣れ、プラダを受け取り、クロエに揺れた翔子は、自分のガードのもろさを知る。
欲望には人を変えるだけの力があるようだ。
それでも結局翔子は成金男を選ばない。
翔子が贅沢をさせてもらうことに魅力を感じながらも、何となく居心地の悪い思いをしていたのは、お金を出されることが彼女のプライドを傷つけるからだろう。
相談を受けた鈴枝が翔子に言った一言は興味深い。
「ものを買ってもらうのが、どうもすっきりしないっていうの、わかるな。多分、自分の人生は完全に自分でコントロールしたいのよね。欲しいものがあれば、自分のお金で買う。それでこそ、プライドが保てる」
鈴枝の言うことは、よくわかる。
「自分には男に金を出させるだけの価値がある」って思うのは、私にとってもなかなかハードルが高い。
コメディ映画好きの翔子は、ブログメイトのコブ茶さんと何時間でも好きなことについて夢中で話し合える。
どんな仕事をして、いくら稼いで、何を持ってて、どんなところに住んでいるかなんて関係なく、お互いの好きなものに共感しあって退屈せずに過ごせる。
「これが付き合ってるっていうことだなぁ」と感じる翔子は一度コブ茶さんと会っているのだが、チャットと違って実際に会うとあたふたしてしまって、結局ネット空間だけの付き合いに戻してしまった。
この二人がまたデートでもすればいいのになぁと私は思う。
あたふたしたりギクシャクしても、慣れればきっと上手くいくんじゃないかな。