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【本】風が強く吹いている

『風が強く吹いている』 三浦しをん (新潮社) 

年末に友人から貸してもらい、駅伝を見る前に読もうと思っていた本。 
三浦しをんはエッセイが面白くて気に入っていたのだけど、小説もいい! 
これは駅伝を扱った青春小説。 
高校の陸上部で活躍していたハイジという男の子が故障を機に走るということについて考え直し、今まで自分が従ってきた練習量に比例して速くなるはずだという管理主義の指導方針に疑問を持つ。 
彼は練習を一日でも休めば力が落ちるのではないかという強迫観念に囚われたために膝の不調を悪化させてしまったのだけど、陸上選手として活躍できないことに絶望して腐ってしまうのではなく、自分なりの方法で「走る」ということにもう一度向き合っていく。 
そんな彼がメンバーとして選んだのは、陸上経験がほとんどない8人の男子学生と高校時代に問題を起こし陸上部を退部し一般入試で大学に入ったばかりの走(かける)という名の新入生だった。 
双子がいたり、マンガおたくがいたり、ニコチン中毒のニコチャンがいたり、個性的なメンバーで無謀にも箱根駅伝を目指す。 
箱根駅伝に出るような選手は一人20キロ前後走るのにペースは1キロあたり3分ぐらいだそうだ。 
私なんて1キロだけ走るのでも5分かかっちゃうよ…と思うのだが、メンバーの中には私とたいして変わらないような運動能力の男も交じっている。 
一年で箱根は無理でしょ…と思うも、ハイジはなかなかの名コーチぶりでみんなを引っ張っていく。 
駅伝当日の部分は本当にハラハラしながら読んだ。 
私は今まで駅伝が10人で走るものだということも知らなかったのだけど、これを読んで2区が「花の2区」と言われていることや5区が山登りであることなどを知って、駅伝を見るのが断然楽しくなった。 
毎日厳しいトレーニングを積んで十分に力を持っているはずの選手が当日力を発揮できないということも珍しくない。 
そんな場面を見ると、スポーツが肉体だけの戦いじゃないということを思い知らされる。 
将棋が頭の良さや研究量だけの勝負ではないのと同じだ。 
予選会を前にハイジはチームメイトにこう声を掛けた。 

「きみたちは十二分に練習を積んでいる。あとはプレッシャーをやすりに変えて、心身を研磨すればいいだけだ。予選会でうつくしい刃になって走る自分をイメージして、薄く鋭く研ぎ澄ませ」「この加減ばかりは、闇雲に練習していてもつかめない。自分の内面との戦いだからだ。心身の声をよく聞いて、慎重に研いでいってほしい」(p.216) 

ハイジは陸上選手にとって一番の褒め言葉は「速い」ではなく「強い」だと言う。 
「走る」という行為は、電車に乗り遅れそうな時や遅刻しかけている時など、私でも日常的に何気なくやっている行為だけど、それを徹底的に追求していくと奥が深いんだなぁと思った。