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【本】父さんのsh*t発言、つぶやきます

『父さんのsh*t発言、つぶやきます』 

ジャスティン・ハルパーン (阪急コミュニケーションズ) 

ジャスティン・ハルパーンという映画の脚本家を目指している青年が、彼女に振られ、住む場所を失って、とりあえず実家に帰ってきた。 
そこで待っていたのは仕事を引退して暇を持て余している毒舌オヤジ。 
彼の仕事は在宅でできるものだったので、父親と二人で家に籠もる生活が続くのだけど、父親は仕事で忙しい母親にかまってもらえないせいか、彼を相手にいちいち悪態をついてくる。 
そんな父親の発言をツイッターでつぶやいていてみたところ、友だちが面白がってくれ、気づけばフォロワーが数十万人に増えて仰天する。 
「これが父親にバレたらタダじゃすまないぞ」と焦るのだけど、父親は意外に憤慨することもなく、彼がツイッターでつぶやいた内容を書籍化するのを承諾してくれた。 
これがアメリカでベストセラーになりドラマ化もされ、日本語にも翻訳され、こないだ私が見てた『週刊ブックレビュー』というテレビ番組でも紹介されていた。 

ユーモアのセンスは私と合わないのか、大笑いするような内容ではなかったのだけど、このオヤジのキャラクターが気に入った。 
初めはムカツクおっさんだと思っていたのだけど、筋が通っていて発言に妙な説得力がある。 
ちょっと極端で非常識とも思える行動を取ったり、喩えがほとんど下ネタでしょっちゅう「クソ」という単語を話の中に入れてくるのだけど、他人に対する思いやりと自分に対する正直さ、裏表のない性格が垣間見えて、読んでいるうちにこのオヤジに好感を持ってしまう。 
子どもの友だちが仲間はずれにされているのを見た時の発言なんて、すごくトンチンカンなんだけど、このオヤジらしさがよく出ているなぁと思った。 

「いいか、確かにあの太っちょのガキのお袋さんはひと言多いおしゃべり女だ。だが、自分の母親がいけすかないクソ女なのは、あいつのせいじゃない。だから邪険にせずに一緒に遊んでやれ」(p.59) 

言ってることはその通りなんだけど、息子の友だちの母親を「クソ女」呼ばわりすることに驚かされる。 
道徳的なことは全く言わないのだけど、卑怯なことが嫌いで真っすぐな人なんだと言う事がよくわかる。 
陰険なところがないし、いつも自信満々で、悩みなんてなさそうだ。 
その自信満々でマッチョな感じがちょっと嫌だなぁとも思っていたのだけど、彼女のいない息子に女の子を紹介するエピソードを読んで、このオヤジの揺らぐことのない自信が好ましく思えた。 
オヤジは息子にミスコン優勝経験のある神経外科の研修医を紹介した。(オヤジの職業は医者) 
息子はレストランの皿洗いのバイトをする親と同居中の28歳である自分にひけ目を感じ、デートで彼女の経歴を知ってバツの悪い思いをしたと父親に訴えた。 
そんな彼にオヤジは「おまえは男で、あの娘は女だろ!大事なのはそれだけだ。それ以外の何があるっていうんだ!」(p.140)と言い放った。 
この発言を聞いて、「これだけ単純にものを考えられれば怖いものなしだな」と感心してしまった。 

このオヤジ、頑固に自分の意見を主張しまくるだけかと思いきや、なかなかいい事を言うし、三人の息子たちに対する愛情も深い。 
彼女に振られた息子を慰めるためにかけた言葉が意外だった。
「よく相手の話を聞け。そして、聞いた話は決してないがしろにするな」(p.227) 
こんな的確なアドバイスがいつもトンチンカン発言をしているオヤジの口から出るとは思わなかったのでビックリした。 
確かにこれができれば彼女から別れを切り出される確率はグッと低くなるだろうし、別れた彼女とヨリを戻すことも可能かもしれない。 
自信満々な態度は空威張りかと思っていたが、このオヤジ、ただものじゃないな。