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【本】累犯障害者

累犯障害者』 山本譲司 (新潮文庫) 

実刑判決を受けたことがあり、『獄窓記』という刑務所内の実態を記した著書もある山本譲司の本。 
福祉の網からこぼれ落ち何度も犯罪を犯しては刑務所に戻ってきてしまう知的障害者の存在に焦点を当てることで、更生保護行政と福祉行政の無機能ぶりを顕わにする。 
障害者手帳をもたず、障害者基礎年金や医療費免除、生活保護を一切受けず、そんな制度があることも知らず、困窮し窃盗などの犯罪を起こしては刑務所に入ることの繰り返し。 
責任能力どころか訴訟能力も受刑能力もないのが一目でわかるような人間を裁判にかけても真相が聞きだせるとは思わないし、冤罪を生む可能性が高い裁判を平気でやる神経も信じられない。 
この本に出てくる人たちは、自分にとって都合のいい証言と都合の悪い証言の違いさえもわからないし、有罪と無罪の違い、実刑と執行猶予の違いも分かっていない。 
こんな人を普通の裁判にかけて、刑を言い渡して、服役させても再犯が防げるはずはないし、身元引受人のところに帰らせて「職に就くように」と諭すだけで福祉への橋渡しもしないというのは無責任すぎるように思う。 
障害者が加害者になった事件を報道すれば、障害者=危険という誤解を生む可能性があるということは分かるが、だからこそ報道しないという選択肢を選ぶのではなく、犯罪を犯すに至った障害者の置かれていた環境や事件の背景を丁寧に報じるべきだと思った。 
加害者が障害者だと分かったとたんに報じなくなるマスコミの態度は問題だ。 
犯罪の加害者になってしまう障害者に焦点を当てることで多くの人の関心をこの問題に集め、福祉政策を充実させることによってこういった事件を未然に防ごうという著者の考えに賛同する。 
『獄窓記』はまだ読んでいないので近いうちに読んでみようと思う。