【本】日本人の「正義」の話をしよう
『日本人の「正義」の話をしよう』勝谷誠彦・岡野雅行(アスコム)
勝谷さんの新刊で、岡野工業の社長岡野雅行さんとの対談をおさめたもの。
岡野工業というのは痛くない注射針を発明して有名になった会社。
痛くない注射針意外にも色んな物を作って大企業と共同で特許を取ったりしている従業員5人程度の会社だ。
読んでいると中小企業の経営がどういうものなのかも少しわかって面白かった。
例えば何かを発明しても単独で特許を取ろうと思うと億単位の資金が必要になる。
自分が発明したんだから自分で特許を取りたいと思う人もいるようだが、自分で特許を取ってそれを守るのは中小企業には不可能だ。
大メーカーが特許侵害をしながら裁判に持ち込み数十億のお金を積んだ時点で、町工場には対抗する方法がない。
おかしな話だとは思うけど、そういうものらしい。
岡野工業はテルモやトヨタと組んで世界特許を出願しているのだけど、そうすると「トヨタは知っていても岡野工業は知らない」という人たちに自分の会社を知ってもらうチャンスになるし、そこをきっかけにして新たな仕事が持ち込まれたりするそうだ。
岡野さんはそれを「無言の営業」と言っていた。
そういう戦い方もあるんだな。
『日本人の「正義」の話をしよう』はサンデルさんの『これからの「正義」の話をしよう』のパクリだが、勝谷さんによると「日本人の正義」というのは論じる対象になる「絶対的正義」ではなく、慣習や日常的な人との関係で「これは恥ずかしいよな」とか「こういうことをすると人から嫌われるな」というような、「正義」というには少し曖昧な行動の指針のことを指すようだ。
二人の対談を読んでいると、この人たちが何に従って動いているのか、何を大切にしているのかが伝わってくる。
よくわからんところもあれば、なるほどと思うところもあって、仕事に対する姿勢には納得できる部分が多くて、自分の力を常にシビアに計って自分を鍛えておくというのは、なかなかできないことだけどやっておくべきことだなぁと思った。
所属に依存しすぎず、自分が今いる場所とは別の場所でも居場所を切り開いていけるかどうか、常に意識しておきたい。
そうじゃないと「自分に対して恥ずかしいことをしたくない」という一点が守れなくなってしまうような気がする。
卑怯なことが大嫌いな二人が好き勝手に喋っているのを読んで、自分も保身のために汲々とする生き方に陥ってしまうのだけは避けたいなぁと思った。