【本】アカペラ
『アカペラ』 山本文緒 (新潮社)
ボケていると娘に疑われているおじいちゃんと、おじいちゃんはボケてなんかいないと断言する中学生の孫。
いとこ同士の恋愛が認められず親戚からも故郷からも逃げ出してしまって、20年振りに帰郷した三十代の男。
病気の弟を抱えて独身で働き続ける五十歳の姉。
三つの短編に登場する人物は十代から七十代まで。それぞれ立場も違えば抱えている悩みも違うように見えるけれど、テーマは共通している。
誰と一番近くで関わりたいか。
その誰かの近くにいるためにはどうすればいいのか。
この問題に直面する時、どうしても子どもは不利だ。
経済力がないという問題もあるけれど、一番のハードルは自分の親の存在。
いくら子どもは親の所有物でもないし親とは別人格の独立した存在だと言ったところで、例えば子どもが事故で大怪我をした時に子どもに代わって子どもの生死に関わる重大な決断を任せられる他人がいるとしたら、それは間違いなく両親だろう。
自分のピンチに深く関わってくれる他人の存在はありがたいんだけれど、時にそれが重荷になってしまうことも。
子どものことに関する決定権が自分にあると信じていながら子どもに対して果たすべき責任を果たせていない親もいるし、親の義務として子どもの男女交際に口を出して親子関係を決裂させてしまうこともある。
大人だって適切な判断を常にできるわけじゃないんだけど、子どもが子どもでいるうちは親の判断に従わざるを得ない。
誰と一番近くで関わっていくかを自分で選ぶことができるというのは、大人の特権の一つだと思う。
誰かのピンチに誰よりも近くで関わりたいと思うことが、誰かのそばにいたいと思うことで、誰かのそばにずっといようと思ったら、自分に力をつけなければいけない。
おじいちゃんと駆け落ちしようとする女子中学生も、力不足で故郷を飛び出してしまった十代の男の子も、病気の彼との付き合いについて考える専門学校生も、みんな同じ壁にぶつかってしまう。
どの短編も好きだけど、二十歳前後の女の子が彼や彼の家族に頼られるような自分になろうと決意する「ネロリ」という短編が特に好きだった。