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【映画】ロルナの祈り

ロルナの祈り 2008年 ベルギー・フランス・イタリア 

主人公ロルナはアルバニアからの移民。ベルギー国籍を取得するために、社会の底辺で生きる麻薬中毒の青年クローディと偽装結婚する。偽装結婚の手引きをしたファビオという男はベルギー国籍を得たロルナを使って金儲けをしようと企んでいた。ベルギー国籍を欲しがるロシア人男性とロルナを結婚させようという計画だ。そのためにはクローディを麻薬の過剰摂取で死なせてロルナを未亡人にする必要がある。離婚・結婚を繰り返すと警察から偽装結婚を疑われるからだ。
初めはロルナもこの計画に納得しているようだった。彼女の夢は恋人と一緒にバーを開くこと。そのためにはお金も国籍も必要だし、「麻薬中毒の男はいずれ薬のせいで命を落とすものだ」と言われればその理屈を飲み込めそうな気もする。
彼女の考えが次第に変わっていくのはクローディとの偽りの結婚生活が始まってからだ。知らない人間との共同生活を煩わしく思っているようだったロルナがクローディの痛みや苦しみに無関心でいられなくなる様子が二人のちょっとしたやり取りに表れているのが素晴らしかった。偽装結婚と分かっていながらロルナとの関係に希望を見いだして何とか薬を断とうとするクローディのセリフが特にいい。
そんなクローディに愛情を感じ始めたロルナがクローディを死なせる計画を何とか変更させようとする。何も持たず、弱い立場に追い込まれ、自分が生き延びるだけで精一杯になってしまってもおかしくない彼女が、まだ闇に飲まれない強さを持っているところに感動した。
出勤前にクローディと別れて職場に向かうロルナが彼の自転車を追ってちょっと走ってみせるシーンがすごく好き。
弱いものがさらに弱いものを踏み台にするという決して美しくない世界を描いているのに、その世界にも信頼できるものが存在することを示してくれるところがこの映画の魅力。ベートーヴェンピアノソナタ32番が悲しげなのに優しくて、ラストシーンによくあっていた。
監督:ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ
脚本:ジャン=ピエール・ダルデンヌ リュック・ダルデンヌ