『ヴィヨンの妻』 太宰治 (新潮文庫) 映画化された表題作を含め、八つの短編が入っているのだけど、私は『親友交歓』という短編が一番気に入った。 『親友交歓』 「小学校時代の親友だ」と言って、平田という男が訪ねてくる。 修治はその男を覚えていない…
『壁』 安部公房 (新潮文庫) ある朝起きると、どうしても自分の名前が思い出せない。 「まぁ、これぐらいのことはどうということもない」と思い、名刺入れを開けてみると、あいにく名刺は一枚も入っていない。 慌てて自分宛の手紙を引っ張り出すと、なぜか…
『美丘』 石田衣良 (角川書店) 二十二階建ての校舎、屋上のフェンスを乗り越えて、目もくらむような高いところを歩いていく少女。 それを見た太一は自殺志願者かと思い慌てて声を掛けたのだけど、そんなつもりは全くなさそうだ。 その人騒がせな少女は同じ…
『夫婦善哉』 織田作之助(新潮文庫) 十七で芸者になった蝶子が客として店に通っていた三十一歳の柳吉と夫婦になるのだが、柳吉には妻と四歳になる娘がいた。蝶子と駆け落ちした柳吉は、奥さんと別れ、実家には勘当され、子どもは柳吉の妹が引き取ることに…
『太陽と毒ぐも』 角田光代(マガジンハウス) 恋人たちの関係を成り立たせたり破綻させたりするものが、お互いの趣味や癖や生活習慣といったひどくみみっちいものだということを描いた短編集。 恋人たちの日常を描いているのだが、ロマンティックなところが…
大学のM先生に会う約束をしてからの一週間近く、落ち着かなくて仕方なかった。 久しぶりに先生に会えると思うと前日はお腹の辺りがふわふわして困った。 百貨店で買った焼き菓子を持って、先生の研究室を訪ねた。 先生は外出中で「すぐ戻る」とメモが貼って…
小倉城庭園で「色鍋島の華~絵になる器~展」という企画展を見てきた。私は陶磁器を見るのが好き。色鍋島は、江戸時代に肥前鍋島藩によって将軍への献上品として作られていたもの。(貿易用じゃなくて国内向け) 染付けの藍色、上絵の赤・緑・黄の四色を用い…
『恋愛嫌い』 平安寿子 (集英社) 一緒にランチを食べる仲の独身女性三人。 勤め先が違うから、お互いの職場の人間の悪口を気楽に言い合えてストレス発散にもなっている。 恋愛体質とは言いがたいこの三人が、結婚や恋愛について語るのが面白い。 それぞれ…
『強運の持ち主』 瀬尾まいこ (文春文庫) 上司と折り合いが悪く半年で退職した吉田幸子は、「一人でできる仕事がしたい」と思い、占い師になる。 ルイーズ吉田として活躍し始めた彼女によると、占い師の仕事は簡単だそうだ。 性格を言い当て、この先いいこ…
『ああ正妻』 姫野カオルコ (集英社) 大手出版社に勤める小早川という男が自分の結婚について友人に「ぼ、ぼくは、いまでは、だまされたような気がするんですけどね…」と語り始め、相手を絶句させる。 彼はいつも恐縮していてすぐにどもってしまう気のいい…
『猛スピードで母は』 長嶋有 (文藝春秋) 「サイドカーに犬」と「猛スピードで母は」の二編が入っているのだけど、どちらもちょっと頼りない大人と子どもにしてはしっかりした子どもが出てくる。 「サイドカーに犬」の薫は、両親の不仲や母親の家出に不安…
『整形美女』 姫野カオルコ (新潮社) 戦災で傷を負った人間に手術を施してきた、1923年生まれの整形専門医、大曾根のもとに一通の手紙が届く。 手術を依頼する文章に、『計画』と題して本人が記した手術内容が添えられている。 差出人は、二十二歳の繭…
『ララピポ』奥田英朗(幻冬舎文庫) 容姿、学歴、職業、名声、自由に使えるお金の額…そういったもので自分と他人を比べて劣等感を持ってしまう人たちが主人公の物語。 どの人も正攻法で自信をつけるということをしないし、他人を見下すような態度をとりがち…
『誰か』宮部みゆき(文春文庫) 今多コンツェルン会長の娘婿になった杉村三郎。 妻と四歳の娘と幸せに暮らしているのだが、その幸せがいつか消えてしまうのではないかという漠然とした不安を抱えている。 大金持ちの娘との結婚を純粋に祝福してくれる人はな…
大阪市立美術館の「道教の美術展」に行ってきた。不老長寿を願ったり仙人になるのを目標とすることで知られる、神仙思想。 その思想が、老子を祖として崇める【道教】というものに発展していく。 道教の思想がどういうものなのかよく知らないのだが、仏教か…
『センセイの鞄』 川上弘美 (文春文庫) 三十七のツキコさんに、七十近いセンセイ。 歳の差を感じさせないほど間のとり方の似た二人が、ゆっくり関係を深めていく。 一緒にいてもどこかに行ってしまいそうで、それでいて一緒にいないときも遠くなってしまわ…
『星々の悲しみ』宮本輝(文春文庫) 予備校に通う浪人生でありながら、なかなか予備校へは足が向かず、中之島の図書館で本を読んで過ごす主人公。 本に夢中になっているかと思えば、女の子に声を掛けたり、わざわざ声を掛けたわりにはその女の子にたいして…
『希望の国のエクソダス』 村上龍 (文春文庫) 2002年、80万人の中学生による集団不登校が起こった。中学生たちは学校へ行かなくなった理由を「学校はリスクの特定もしてくれないし、サバイバルするための手段も与えてくれないから」と説明する。 起…
「やなぎみわ 婆々娘々(ポーポーニャンニャン)」すごく良かった。 初めに展示されている「マイ・グランドマザーズ・シリーズ」は一般公募のモデルが【50年後の自らの理想の姿】に特殊メイクやCGを使って変身するもの。 26人の理想の老婆像は見ごたえ…
7月15日、心斎橋クラブクアトロのカジくんライブに行って来た。 私はライブというものに行くのが初めて! もちろん生でカジくんを見るのも初めて! 前日は熱を出すし、ちょっと厳しいかなぁとハラハラしてたんだけど、うちから近いし、のんびりしてから行…
十三の第七芸術劇場で6月26日(金)まで公開されていたドキュメンタリー映画、『小三冶』を観に行った。 最終日に何とか観に行けたのだ! 柳家小三冶を追いかけたドキュメンタリー映画なのだけど、すごくよかった! 私が小三冶ファンになったのは、ごく最…
『邪魔』 奥田英朗 (講談社) 複数の登場人物の視点で、一つの事件が描かれていく。 主な登場人物は三人。 七年前に妻を亡くし、義母を心の支えにしている36歳の刑事。 仲間とつるんで悪さをする男子高校生。 スーパーでパートをしながら二人の子どもを育…
『恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。』角田光代(角川文庫) 角田さんのエッセイ集。 二週間に一度、ネット上で公開されていた角田さんの日記をまとめたものらしく、2003年の夏から約二年間の角田さんの日常が綴られる。 なんでもないような出来事や…
『ゆで卵』 辺見庸 (角川書店) 人は、いつかは死んでしまう。 それは、当たり前のことだけど、たいてい人は自分が死ぬなんて全く想像せずに日々を過ごしていく。 たとえ、人の死を何度経験しても、自分の死になじむことは決してない。 でも、確かにあると…
『空へ向かう花』 小路幸也 (講談社) 「このタイトルはどういう意味なんだろう」と思って読み始める。 ビルの屋上から飛び降りようとする男の子に隣のビルの屋上にいた女の子が偶然気づき、とっさに鏡で光を反射して自殺を止める。 我に返った男の子は、女…
『青春漂流』 立花隆 (講談社文庫) 立花隆が青春真っ只中の11人の青年(22~36歳)にインタビューした内容をまとめたもの。 1985年に刊行された単行本が文庫化されたものだから、ずいぶん古い話。 ここで言うところの【青春】は、恋愛や友達関係…
『ビタミンF』 重松清(新潮社) 四十前後の父親が家族について悩んだり考えたりする数日間を描く短編集。 「そろそろ、息子とケンカをしても勝てなくなるかもしれないなぁ」と自分の衰えを感じる三十八歳の父親。 気の弱い息子にイライラして、二人でいるの…
『僕の名前は。アルピニスト野口健の青春』 一志治夫(講談社文庫) 山登りやら冒険やらに全く興味のない私は、野口健にも植村直己にもほとんど関心がなかった。 ただテレビで見る野口健には「妙に人を惹きつけるところがあるなぁ」と思っていた。 テレビで…
『映画篇』 金城一紀(集英社) 登場人物が様々な形で映画と関わる短編集。 レンタルビデオ店の店員がサービスで貸してくれたビデオで久しぶりに大笑いした、夫を亡くしたばかりの女性。 両親の離婚問題に胸を痛めながら、夏休みに50本の映画を観た小学生…
『GO』金城一紀(角川文庫) すいぶん前に映画で観たのが、この作品と出会ったきっかけだったのだけど、その時に「これだ!」と思った。 イメージに訴えて伝えたいことを伝えてくるようなところがあって、それが私の性に合うのか、すこーんと入ってくる。 …